精神医学 Vol.61 No.11 特集 医療現場での怒り—どのように評価しどのように対応するべきか
患者の怒りのマネジメント 福森 崇貴
トラブルマネジメントからみる医療安全と怒り 瀧本 禎之
”怒り”をテーマとした特集。各疾患ごとのマネジメントについて解説されています。
ひとまず総論的な内容の2つの論文をpick upし、まとめました。
器質的原因を忘れずに
脳血管障害、脳腫瘍など、病気が原因で怒りっぽくなることがある。こうした可能性があることを忘れずに。
ネガティブな感情≠わるいこと
「感情的になるのはダメなこと」と現代人は考えがちですが、不快な感情も生きていくために必要なもの。怒りも、自分の領域・大切なものを傷つけられた、危険が迫っている、という警報の役割を果たしてくれているのです。無理に抑え込もうとすると「怒りを感じてしまった自分が情けない」などの二次的感情が生じて、逆にややこしくなる。感情は有効活用すべきものです。
パターンの把握
どんな状況で怒ったのか、怒った結果、何が変化したか、を客観的に分析しましょう。具体的には紙に書いてみよう。
ありがちな例として、「大声で待遇に文句を言う」→「相手が折れて待遇が良くなる」→「『大声で文句を言えば待遇を良くしてもらえる』と学習し、怒り続ける」という悪循環をきたすケース。客観視が出来れば、どこから手をつけていくべきか考えやすくなるし、怒りに巻き込まれた当事者であっても冷静にマネジメントできるようになる。
早めの対応!
怒りは通常、イライラ→暴言→暴力 とステップが上がっていく。なるべく早い段階で対応することが望ましい。
「だんだん声のトーンが低くなる、早口になる、語調が強くなる」などの予兆を見逃さないようにしましょう。
動揺しないこと!
怒りの矛先が自分に向けられると、誰しも不安や恐怖を感じるもの。しかしそれを表に出してしまうと、ますます怒りを増幅させてしまう。
まずは冷静に、「どうして怒っているのか」を傾聴しましょう。途中で口を挟んだりせず、話し終えるまでじっくり聞いてあげましょう。
「話を聞いてくれる」「味方になってくれている」と感じてもらえたら、怒りは和らぐものです。
緊急事態なら応援をためらうな!
どう頑張っても怒りを鎮められそうにない、と感じたら、迷わず応援を呼ぶべきです。
特に精神科病院においては、身体の急変時とは別に暴言・暴力時の緊急コールである「コードホワイト」が設定されていることが多い。
※補足
交渉役は1人に絞りましょう。
実際に体験してみると分かりますが、応援の人が大勢やってきて自分を取り囲み、「大丈夫ですか!?」「落ち着いて!」「どうしたんですか!?」「聞こえます?分かります?」「何があった!?」「まあまあ落ち着いて!」「どうすれば良いんだ!?」「主治医はどこだ!!」「皆さん冷静に!!」
…と口々に大声で言われたら、怒りを通り越して大混乱に陥るのは必至。
なるべく仲の良い人、信頼関係が出来ている人が”交渉役”となり、会話はその1人が担当。
他の応援スタッフは本人を刺激しない程度の距離を保ちながら待機、が理想的です。
おまけ ~CVPPP(包括的暴力防止プログラム)の紹介~
~患者さまによる暴力への対応は日常業務の中でも、とても重量な業務の一つです。今回のプログラムは『包括的暴力防止プログラム』と呼ばれ、病状により不穏・興奮状態にある患者さまに対して、患者さまの人権を守りながら安全に保護し、必要な治療や看護につなげることを目指したプログラムです。~
暴力への対応について、英国ではControl&Restraint(C&R)や北米ではCrisis Prevention Institute(CPI)として体系的な対応が開発され、トレーニングも行われ、司法精神医療施設にとどまらず、一般の精神医療等で使用されている。肥前精神医療センターでは、日本の現状に即した暴力への介入の評価と対処技術について包括的暴力防止プログラム(Comprehensive Violence Prevention&Protection Programme CVPPP)としてマニュアル化した。
今後は当センターに限らず、各施設への導入を図ると共にCVPPPを現状に合わせて改訂し、その効果を検証したい。そして将来的には司法精神医療施設に留まらず、一般の精神医療施設でも活用できるように普及を図ることにより、対象者及び医療関係者特に看護師の安全を図り、効果的な暴力への対処能力を高め、精神医療における治療的環境の向上に資する。結果、対象者だけでなく、職員の安全も図ることができ、お互い受傷することが少なくなると考える。
佐賀県が誇る肥前精神医療センターで開発されたプログラム。
本当は早めに紹介したかったのですが、今年は新型コロナの影響で研修が全て中止になってしまいました。残念。
私も研修を受けましたが、「患者さんを取り押さえるための技術ではありません。患者さんの怒りに共感し、寄り添い、一緒に解決するためのものです。患者さんを”加害者”にしないことが最大の目的です」というトレーナーの先生のお言葉、とても大事な考え方だと思いました。
怒りは、余裕が無くて困っているからこそ生じる感情。そんな時こそ冷静を保ち、相手を尊重しましょう。普段聞けなかった本音を聞かせてもらい、長い目で見ると事態が好転する切っ掛けとなるかもしれません。
(・ω・)ピンチはチャンス!それが精神科でござる。
以上。