医局日記

【雑誌紹介】~うつ病、認知症と神経炎症~


メディカルレビュー社 精神科臨床 Legato 2020年11月号(Vol.6 No.3)

【病態】うつ病と認知症の共通病態としての神経炎症 溝口義人 より

(´-ω-)「アルツハイマー型認知症の根本的治療法としては、老人斑の主成分であるアミロイドβの凝集を早期に発見し防ぐことと考えられています。近年、アミロイドPET検査を用いた研究によると、孤独感・寂しさ・不眠、が生じている健常高齢者では大脳皮質にアミロイドβが沈着していたとのことです。」


老人斑(≒アミロイドβ)
NHK健康ch アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβ。糖尿病だと蓄積が高まる理由 2020年4月13日

近年、アルツハイマー型認知症の原因と考えられる物質が明らかになってきています。その1つが“脳のシミ”として知られている老人斑です。老人斑は「アミロイドβ」というタンパク質でできています。実は、このアミロイドβは認知症の症状が現れる20年以上前から脳内に蓄積し始めると考えられています。


アミロイドPET検査

アミロイドPET検査について

アミロイドβ蓄積の有無や程度を調べることにより、認知症をより正確に区別・評価することが可能で、治療薬の選択や治療方針に十分役立つと考えられています。


(´-ω-)「生活習慣病、ストレス、そして加齢は、慢性炎症と深い関りがあります。そして脳内では、ミクログリア(microglia)が神経炎症に重要な役割を担っています」


ミクログリア(microglia)

脳の免疫系を担うミクログリア 1996年1月号

ミクログリアは通常は突起を多数伸ばして周囲の細胞に接触し, 異常がないかを監視している。ニューロンに異常が起こると,形 を変え,ニューロンの修復を手助けするような成長因子を放出する。また,腫瘍細胞や細菌を殺すような分子も出す。さらには, 死んでしまったニューロンや他の脳細胞を貪食して,脳内を清掃 する役目もある。
しかし,免疫細胞としてのミクログリアの働きは諸刃の剣でも ある。腫瘍細胞や細菌を殺すためのサイトカインやタンパク質分 解酵素,活性酸素類は時として,正常なニューロンを殺してしまうこともある。健康な人では,ミクログリアが必要以上に働きす ぎないように,制御する機構が働いているらしい。しかし,アル ツハイマー病やダウン症の患者では,この制御が効かずに,ミクログリアが暴走し,その結果ニューロンの死と痴呆という状況を 招いているようだ


(´-ω-)「これもPET検査で観察できます。健常な成人の場合、炎症が起きて倦怠感などが生じた後、前頭葉、海馬、偏桃体などでミクログリアが活性化します。うつ病患者さんの場合、うつ症状とミクログリアの活性に正の相関がみられるとの研究報告があります。」
(´-ω-)「つまり…ミクログリアを適度に抑えることが出来れば、うつ病や、アルツハイマー型認知症を予防できるかも。」
(´-ω-)「ただし別の研究では、『アルツハイマー型認知症の患者さんの脳を解剖したら、ミクログリアが退行変性していた』という報告もありました。活性の問題だけではなくミクログリアの”老化”に注目した研究が、近年相次いでいます。」


BDNF仮説

(´-ω-)「BDNF(Wikipedia:英語版)について説明しましょう」
(´-ω-)「分子量28000、アミノ酸119個からなるタンパク質です。海馬、大脳皮質において最も多く生成され、ニューロンやミクログリアを含むグリア細胞により産生されます。このタンパク質は、神経細胞の成熟や生存、発達、再生、さらには学習や記憶などに重要な役割を担っています。脳だけでなく筋肉や膵臓、腎臓などでも作られており、末梢組織のエネルギー代謝にも関与しています。」
(´-ω-)「慢性炎症をきたしている患者さん、うつ病患者さんでは血中BDNF濃度が低いのです。運動(エクササイズ)すると末梢組織でBDNFが増えます抗うつ薬で治療された患者さんや、認知症治療薬で治療された患者さんは、BDNF濃度が回復すると報告されています」

(´-ω-)「そして我々の研究の結果、BDNFがミクログリアの活性化を抑制することが分かりました!」


まとめ、補足

(´-ω-)「糖尿病、高血圧を予防し、慢性炎症を避けましょう。運動しましょう!きちんと睡眠をとりましょう!
(´-ω-)「そうすればBDNF濃度が高まり、ミクログリアを抑え、うつ病を予防し、将来の認知症リスクも予防できます!」


(`・ω・)「最新精神医学の最新号でも、僕が論文投稿しました!」


世論時報社 最新精神医学

…(・ω・)最新号は第6号ですが、まだwebサイトでは5号までしか載ってませんでした。恐縮です。

(`・ω・)「解説を付け加えると、ミクログリアにも善玉(M2)悪玉(M1)の2種類がありまして、アルツハイマー型認知症の初期では善玉が活性化して脳の組織を保護しようと頑張っているのですが、やがて悪玉が活性化し、組織障害が進んでしまう、という病態のようです。」
(`・ω・)「何はともあれ、運動はBDNFを活性化しアミロイドβ沈着を防ぐのは間違いなさそうなので…」
(`・ω・)「若者達よ、登山しましょう!(=運動しましょう)」


以上。