教授挨拶

教授挨拶

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2023年7月1日に教授に就任しました溝口義人と申します。

当院は佐賀県内で唯一の精神科病床を有する総合病院であり、身体合併症などで高度な医療を必要とする方や認知症の鑑別を要する方など、佐賀県の精神科医療の最後の砦として重要な役割を担っております。また、病院内におきましては、せん妄やストレスによる抑うつ、不安などに他の診療科と協力して対応するリエゾンチーム、当直医としての業務など幅広く活動しております。

診療において専門性の高い高度医療を実現するために、診断や治療方針が標準的な手順で実施されたかが重要です。診断と分類においては、例えばDSM-5およびICD-10(ICD-11)を用いるなど、また治療においては、例えば「うつ病治療ガイドライン」など、診療の根拠や手順についての最新の情報をまとめた指針である診療ガイドラインを用い、エビデンスに基づいた、現在活用できる最良の治療を選択することが重要であると考えております。ですので、日本精神神経学会の専門医あるいは厚生労働省の精神保健指定医など重要な資格の取得を志す若手の精神科医の皆さんにとっては、標準的な治療を実施できるようになることが重要かと思います。一方で、精神科の特徴は患者の個別性が高いことです。一人ひとりに合った個別的な治療を実施するために、診療録(記録)をしっかり残す姿勢、多職種によるカンファレンスや症例検討会で学ぶ姿勢、症例報告や関連文献を収集し、考察する姿勢が重要になると考えます。標準的な治療と同時に、個別的な治療を実施していく上では、好奇心、探求心を持って知識のアップデートを志す、研究志向が重要で、自身のテーマを見付けて研究に取り組んでいくことも重要と考えます。

ところで、人間の身体の中にある器官(臓器)には、それぞれの役割(機能)があります。たとえば、「胃」は臓器ですが、その機能は「消化」であり、臓器である「肺」の機能は「呼吸」です。そして「脳」の機能は「精神、こころ」です。「脳」が他の臓器と大きく異なって、特徴的なのはその機能が個人に留まらないことです。こころは個人に留まらず、家族、友人、他者、さらにコミュニティ、社会などと互いに影響し合って機能しています。こころの病気とは、精神的なことで日常生活や社会生活に支障をきたしている状態ですが、個人がこころの病気から回復するためには、社会全体でこころの健康について理解を深め、まわりの人が家族や個人をやさしく支えていくことがとても大切です。また、こころの健康を保つには、脳の健康を保つことも重要です。睡眠を十分にとること、適度な運動を生活に取り入れ、バランスのとれた栄養・食生活に気を配ることは脳の健康を保つ上でとても重要です。精神科医は脳に関する知識を活用しつつ、他方で社会に働きかけ、家族をサポートしながら、個人がこころの病気から回復する手助けをできる存在だと思います。

長文となりましたが、児童・思春期(育ち)から老年期(老い)に至る多様な精神疾患について、生物学的側面と心理・社会的側面の双方を重視した臨床を基本とし、神経科学、薬理学から心理学、社会学、文化人類学など幅広い学問に興味を持って取り組める、「治せる精神科医」を育成すべく、臨床、研究、教育と今後も丁寧に取り組んでいければと考えております。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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