医局日記

【精神医学】~電気けいれん療法~

精神神経学雑誌第115巻 第6号: 586-600, 2013(pdf形式、全文)
電気けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版 より

【歴史】1930年代、「けいれんが起きると統合失調症が治るのでは?」という研究がスタート。1938年に電気を流して人工的に全身けいれん発作を引き起こす電気けいれん療法(ECT:Electro Convulsive Therapy)が誕生。日本でも1939年から導入された。最初は統合失調症に対する治療法であったが、やがて他の多くの精神疾患にも使われるようになった。

薬物療法が未発達な時代だったこともあり、ほとんど唯一の治療法であるECTは大流行(…流行し過ぎて、もはや乱用)。しかし安全性の面から徐々に敬遠され、薬物療法の発展とともに使用されなくなった。(けいれん発作中に骨折するリスクもあったらしい…。)
が、時を経て徐々に安全技術が向上。2002年にはパルス波治療器が日本国内でも認可され、麻酔薬・筋弛緩薬を併用することで安全に実施できる修正型ECT(mECT:modified ECT)が広まっていき、現在に至る。


適応疾患

統合失調症うつ病双極性障害(躁うつ病)、の3つが主な対象疾患。(難治性強迫性障害、重症緊張病、(薬が効かない)悪性症候群、(薬が効かない)パーキンソン病、慢性疼痛、などに使われることもあるようです。)


メリット
精神科のお薬を使わなくて良い。諸事情でお薬が使えない(妊婦さん、薬剤抵抗性、身体合併症など)、という場合でも治療できる。
迅速かつ確実な症状改善が期待できる。

デメリット・副作用・禁忌
入院する必要がある。
副作用(けいれん発作による筋肉痛、頭痛、一時的な認知機能障害、麻酔の合併症など)のリスクがある。
けいれん発作時に急激に血圧が上昇するため、重度の心疾患、脳血管障害、呼吸不全、などはリスクが高く、禁忌となる場合があります


~mECT導入の手順~

麻酔の準備
全身麻酔を行うので、麻酔科医の先生に協力してもらいます。
事前の心電図、レントゲン、血液検査、呼吸機能検査、絶飲絶食、点滴の用意など。外科手術の準備と同じです。



バイトブロック
けいれん発作時に舌を噛む恐れがあるので、マウスピースみたいなのを準備します。



お薬の中止
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、気分安定薬(≒抗てんかん薬)など、一部のお薬はてんかん発作を起こしにくくする作用がありますが、これだとECTの効果が弱まってしまいます。よって事前に服用を中止します。


~急性期ECT~

はじめてECTを行う場合や、症状が再発した場合など。
基本的には週3回(月、水、金曜日など)、計6~12回(つまり2~4週間)、治療を行います。


~継続ECT、維持ECT~


急性期の治療で効果が認められた場合、再発予防のために行うもの。回数を減らしつつ6ヶ月間続けるものを継続ECT、6ヶ月以降も続けるものを維持ECTと言い、2つ合わせて「メンテナンスECT」と呼ぶこともあります。


※補足、雑誌紹介

臨床精神医学第49巻第6号 特集/精神科領域におけるニューロモデュレーションとその応用
電気けいれん療法の最近の進歩 (熊本大学)竹林 実
メインテナンスECT (日本医科大学)坂寄 健・他

副作用を抑えつつ効果的にけいれん発作を引き出すための、麻酔薬・筋弛緩薬の調整、電力設定、電極の工夫、反応性の評価方法、次世代ECT(磁気けいれん療法:MST、局所刺激けいれん療法:FEAST、低振幅刺激けいれん療法:iLAST)の紹介、など高度な内容です。必ず読めとは言いませんが、統合失調症・うつ病・双極性障害を専門に志している精神科医の皆さんにオススメです。


まとめ

…紹介しておいて何ですが、残念ながら当科(佐賀大学精神科)ではECTによる治療は採用されていません。
そのかわり近くの病院、肥前精神医療センターではECTが導入されています。

肥前精神医療センター救急病棟、ECTユニット室の写真 より
~当院ではスーパー救急病棟(西5病棟)の中に専用の治療室(ECT ユニット)を設けています。麻酔を施した上で、コントロールされた一定の電流を流す治療です。通電と聞くと、びっくりされる方も中にはおられますが、熟練したチームスタッフに、佐賀大学病院麻酔科の専門医が参加し、安全面に配慮しながら治療実績を積み重ねています。~

頭に電極を貼る→電気を流す(ビビビビビビッ!)→けいれん発作が起きる(ブルブルッ)
…という治療現場を見た学生さん達、みんなビックリしてました。
確かに見た目は恐いのですが、「お薬を使わず、迅速かつ確実な治療ができる」というメリットは非常に大きいものです。若手精神科医の先生方は、その適応、メリットデメリットについてしっかり勉強しましょう。専門医試験にも出ます。


以上。