【精神医学】~統合失調症~
統合失調症(Schizophrenia)
いわゆる「幻覚」「妄想」を主症状とする病気。
精神科においては代表的な疾患であり、発病率は1%。つまり100人に1人は一生のうち一度はこの病気になると言われている。
その歴史とか治療法とかは、ここでは省略。有名な疾患なので、web検索すれば沢山資料が出てきます。
【特徴】
(´□ω□)「統合失調症を一言で表すなら、”気になり過ぎ”病です」
…と言った先生が居た。この表現が一番的を射ていると思います。
教科書や、ネットでの情報を見ると、統合失調症には様々な症状(幻聴、思考障害、自我障害、させられ体験、被害妄想、誇大妄想、緊張…)があり、様々な亜型(妄想型、破瓜型、緊張型、残遺型、単純型…)があってややこしい。
全てを纏めるなら、先述した通り「気になり過ぎ」が根底にある。ちょっと強引に例えると、
「何となく偶然とは思えない」という考え方が妄想へと発展していく
「何か感覚が変」という感覚の鋭さが幻覚へと発展していく
「集中できない」から思考障害、支離滅裂な言動へと発展していく
「そもそも自分とは何なのだ」と気になりだすと、自我障害へと発展していく
…と、解釈できるのではないかと。
そして心理学的には確証バイアスというものがあり、人間ってのは一度気になりだすと「証拠探し」に没頭してしまいがち。「気のせいかなー」「そうよモルダー、あなた疲れてるのよ」で済ませりゃ良いところ、「やっぱり偶然じゃない!」と更に突っ走ってしまうと、どんどん治療から遠のいていく悪循環になりがち。
【診断と鑑別疾患】
ここは要注意で、「幻覚」「妄想」といった症状は、統合失調症に特徴的…というわけではない。
解離性障害でも、幻覚や自我障害などは出現する。
発達障害における「独特のこだわり」「注意散漫」などは、重度になると思考障害の症状と見分けがつかない。
高齢発症の場合、当然ながら認知症との鑑別が必須だ。
よくよく調べていくと、生活の背景にアルコール問題や薬物依存が隠れているかも。
こうした「他の疾患」であれば、治療法も変わって来る可能性がある。
…なので「うむ、あなたは統合失調症だ!間違いない」と初診から言い切る精神科医は少ない。身体科であれば「診察→検査→診断→治療」という順番だけど、精神科の場合は「診察→検査→治療→評価→ … … →診断」と、最後に診断が決まる(というか診断保留がずっと続く)ということも珍しくない。下手に確定診断をつけてしまうと、その後の患者さんの治療・人生に大きな影響を与えてしまう怖さを、我々は知っているからです。
逆パターンもある。
「うつ病にしては、なんだか妄想の内容が変だ」
「自閉症?にしては、昔はとても器用に生活できていたみたいだけど…」
「パーソナリティ障害?にしては、ある日から突然豹変した」
「解離性障害?にしては、原因となるストレスが見つからない…」
他の疾患の治療中、よくよく調べていくと「実は幻聴に操られていたが、だれにも相談できず抱え込んでいた」というパターンもあり得る。
【対処】
100人に1人が発症する病気なので、全然珍しくない。早めに気付き、早めに治療することが大切です。
・自分が発症した場合
一人で抱え込まないこと!これが鉄則です。まずは親しい人に相談し、精神科(心療内科、メンタルクリニック、でも構いません)を早めに受診しましょう。
・家族や知人が発症した場合
「幻覚や妄想」を否定しないこと。本人にとっては現実として感じている出来事なのです。否定されてしまうと「そんなハズが無い」と更に警戒を強めるか、「やはり自分はおかしくなってしまったんだ」と絶望を強めてしまう恐れがあります。「とりあえず今できること」を一緒に考えるようにしましょう。
対応に困る場合、最寄りの保健所への相談を検討ください。
【雑誌紹介】
医学書院 精神医学 2021 Vol.63 No.3 特集:サイコーシスとは何か
サイコーシス(≒幻覚妄想の症状)についての特集。統合失調症だけでなく、他の疾患との鑑別、そもそも脳の中で何が起きているのか?どう対処したら良いのか、そもそも病気の定義とは、歴史的背景とは…という、結構マニアックな内容になっています。統合失調症治療のスペシャリストを目指す、という精神科医は是非。
追記、まとめ
臨床を経験しながら感じたのですが、「気にしない」という訓練を積んでおけば、この病気は結構予防(少なくとも早期発見・治療)が出来るのではないかと。逆に「徹底的に気にして、内面を探っていく」治療は、統合失調症では原則禁忌らしいです(余計に妄想が固まる)。
私が精神科医を目指すきっかけになったのが、統合失調症の患者さんに出会った体験であった。私が専攻を目指している分野でもあり、今も日々勉強中。しかし勉強すればするほど…その原因、病態、他の疾患との鑑別が難しいことに気付かされる。メジャーな疾患ながら、この日記で紹介・まとめるのが随分遅くなってしまいました。いやまぁ、メジャーだからこそ下手な事書けねぇ、というプレッシャーもあったので。その割には今回、だいぶ攻めた内容にできたと思う。
ただでさえ「幻覚妄想」は奇異な目でみられがちな症状であり、それを主症状とするこの病気は、歴史的に多くの偏見・差別を生んできたと思います。特に年配の患者さんの場合、「自分はおかしくない!絶対入院したくない」と否認する場合も。もっと気軽に「あー統合失調症かも、ちょっと治療してきまーす」と言い合える空気になれば、重症者はかなり減らせるのではなかろうか。将来、そういう研究・啓蒙活動やっていきたい。
以上。