医局日記

【精神医学】~アルコール使用障害~


臨床精神医学第49巻第10号 特集/アルコール使用障害の現在とこれから 発行日:2020年10月28日

アルコール使用障害の現在とこれから (幹メンタルクリニック)齋藤 利和・他

ICD-10の診断基準に基づいて推計されたアルコール依存症者数は57万人(2014年)と報告されているが、治療を受けているのは4万人程度。問題は治療されることなく放置されている50万人余りである。軽症例の早期発見につとめ医療的なアプローチをすることによって、多くの悲劇を生む重症のアルコール依存症を予防することが重要と思われる。
1935年AlcoholicsAnonymous(AA)が米国で誕生するまではアルコール依存症者からの回復者は皆無に近かったといってよい。我が国においては1963年東京断酒新生会と高知県断酒新生会が手を結び「全日本断酒連盟」が結成された。断酒会とAAは断酒を継続しほかのアルコール依存症の断酒を助けるという共通の目的を持っている。決定的な違いは断酒会が匿名性を破棄したことである。

1963年アルコール専門病棟が国立久里浜療養所に設置され、自主的な3ヶ月の入院、集団精神療法、運動療法、患者自治会を骨子としたアルコール依存症の治療システムを作った。これは久里浜方式と呼ばれ、治療モデルとなった。

アルコール依存症の治療は「聞かせていただく」という態度で、丁寧に病歴を聴取することから始まる。来院した勇気を褒め、ともに努力する合意をとりつけることが大事である。問題の直面化よりも良好な治療関係維持を優先する必要がある。

従来の治療ゴールは断酒であったが、軽症のアルコール依存症者に対する治療も考える必要があり、患者の状態によっては節酒も選択されるべき。

カウンセリングでは飲酒問題の直面化は避け、「健康」をテーマとして扱うことで、否認や抵抗も比較的少なくなる。介入のキーワードは「共感する」「励ます」「誉める」である。


補足


厚生労働省 e-ヘルスネット アルコールと依存

アルコール依存症から回復するための唯一の方法は、断酒=一滴も飲まないことです。飲酒問題を認めない「否認」を克服することが回復への第一歩です。自分で飲酒問題に気付くため、家族があまり手助けしすぎない方が良いこともあります。専門医療期間への受診や自助グループへの参加が回復を助けます。

自助グループはある障害を持つ者同士が互いに励ましあいながら、その障害を様々な形で克服していくための集団です。自助グループの原型は、米国で1930年代に設立されたアルコール依存症者による「AA」です。このAA方式は以後、他の多くの障害にも応用されてきています。アルコール依存症の回復は、断酒継続が大原則です。自助グループへの参加は、断酒を継続するために非常に重要です。日本におけるアルコール依存症の主な自助グループは断酒会とアルコホーリクス・アノニマス(AA)です。



アルコホーリクス・アノニマス オブ ジャパン

アルコホーリクス・アノニマスは、経験と力と希望を分かち合って共通する問題を解決し、ほかの人たちもアルコホリズムから回復するように手助けしたいという共同体である。
・AAのメンバーになるために必要なことはただ一つ、飲酒をやめたいという願いだけである。会費もないし、料金を払う必要もない。私たちは自分たちの献金だけで自立している。
・AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体にも縛られていない。また、どのような論争や運動にも参加せず、支持も反対もしない。
・私たちの本来の目的は、飲まないで生きていくことであり、ほかのアルコホーリクも飲まない生き方を達成するように手助けすることである。


全日本断酒連盟 断酒例会とは

断酒会活動の基本は例会である。
20名くらいで約2時間、酒害体験を話し、それを聴く。家族も参加する。家族も酒害体験を話す。家族は依存症本人ではないが、酒害の影響をまともに受けている。体験談を話すことにより、家族も自己洞察が強まり、回復へと結びついていく。

今までは、「意志が弱いから酒が止められないのだ」と周りの人たちから責められ、また、「やめたいのにどうしても飲んでしまう」という言い分をまったく聞いてもらえなかった。例会に出席してそれを話すと、みんなが分かってくれる。認めてくれる。ここから、みんな仲間だという一体感が生まれる。また、例会に出席し続けることにより、自分は酒をコントロールできないのだ、自分だけが違うのではなく、みんなと同じ依存症なのだという自覚が心に生まれてくる。この「一体感」と「自覚」が断酒継続の原動力である。

この部屋で聞いたことはこの部屋に置いていく。体験談の秘密を守ることも大切である。



アルコール科 概要

戦後、飲酒量が急激に増大し、飲酒問題が大きな社会問題となったことを受け、昭和38年に河野裕明、堀内秀 (ペンネーム : なだいなだ) 両医師を中心に、国立病院としては初めて当院にアルコール依存症治療病棟が設立されました。その後は、我が国におけるアルコール依存症治療の中核として発展しています。

アルコール依存症の新治療プログラム (GTMACK - ジーティーマック – )

病院で行われるアルコール依存症の入院治療には2つの段階があります。

第Ⅰ期治療
アルコールへの囚 (とら) われからの解放
禁断(離脱)症状に対する解毒治療
肝障害などの身体合併症に対する身体治療

第Ⅱ期治療 (リハビリテーション治療)
依存症やアルコールの害について正しい知識を身につける酒害教育
抗酒剤などの薬物療法
心理社会的治療

心理社会的治療は従来の集団精神療法 (ミーティング) 、認知行動療法、断酒会・AAなどの自助グループ参加、作業療法、家族教育などが含まれます。

新しいプログラムは認知行動療法を基本にしていますが、ロサンゼルスのマトリックス・インスティチュートで開発され国際的にも有効性の示されている包括的な物質依存治療プログラムであるマトリックスモデルを参考として変化のステージモデルやパラダイム発展モデルといった新たな治療法を取り入れています。


まとめ

医療従事者においては、診断名は「アルコール依存症」よりも「アルコール使用障害」と表記することを推奨します。依存だけでなく、急性・慢性の中毒症状や離脱症状を含むためです。
これまでは「アルコール依存の治療は断酒一択!」でした。厚生労働省のサイトでは現在もその方針で記載されている通り、現在も”原則として断酒を目標とすべき”点は変わらないようです。しかし病院を訪れ治療を開始する時点で、既に仕事を失ったり家庭が崩壊していたりと、大きく追い詰められているケースが多く、治療は極めて難しいものでした。今後は「早期介入、予防」が重視され、その場合には「節酒」も大いに有効な治療目標となり得る、と考えられつつあります。

アルコール使用障害は一大ジャンルなので、何回かに分けてまとめていきたい。今回扱いませんでしたが、診断基準、薬物療法など。
認知行動療法についての理解も必要になるため、私も更に勉強してまいります。
以上。