医局日記

【書籍紹介】~現代精神分析基礎講座~


金剛出版 現代精神分析基礎講座  第1巻 2018/12/03出版
ISBN: 9784772416634


この本の主旨は「そもそも精神分析って何?」という歴史や、どんな時に役立つのかという具体的な症例エピソードの紹介。治療契約・診察室の環境設定まで細かく解説され、料金設定にまで言及している。精神分析を学び始める人向けに、まず精神分析の考え方、姿勢、を知って欲しい。そんな著者の意図を感じる。


①フロイトを知る


ジークムント・フロイト(Wikipedia)

1856年オーストリア出身。ウィーン大学卒業。29歳時にパリへ留学し、神経学者ジャン=マルタン・シャルコー(Wikipedia)のもとでヒステリー(神経症状)に対する催眠療法を学んだ。帰国後、以前から交流のあったヨーゼフ・ブロイアー(Wikipedia)との共同研究をすすめる。やがて、すべての患者が催眠状態になるわけではなく、催眠に入らない、また入っても必要な深さまで入らなかった患者がいることが分かってきた。どうやら幼児期までの長い回想を巡る必要があり、行きつく先が必ずと言ってもいいほど幼児期の性的体験に辿りついている。最終的に自由連想法と呼ばれる治療法に辿り着き、精神分析の基礎理論となった。
なおフロイト的には「科学が全てだ!」という思想であり、終生無神論者だった。そのため、ユング、アドラーといった仲間達とは袂を分かつことにもなった。


②精神分析の歴史を知る

フロイト以降も精神分析は発展を続け、やがて日本にも普及していった。ちなみに当初は、森田療法(12月22日の日記参照)で知られる森田正馬先生が「そんなもん迷信じゃ」と5年間にわたって精神神経学会で批判しまくった(学会の名物になったらしい)という、微笑ましいエピソードがある。何やかんやありつつ、1955年に日本精神分析学会が発足した。なお日本に導入後、独自の理論や技法も加えられていったとのこと。古沢平作による「阿闍世コンプレックス」(Wikipedia)、土井健郎の「甘えの構造」(Wikipedia)など。


③具体的な、精神分析の手法

第7講(P.125~)から、具体的な精神分析の技法について書かれています。ある程度知識のある人は、ここから熟読することを推奨。導入にあたって知っておくべきは、「五感をフル活用して、患者さんの思考・情緒を理解しようとつとめる」「転移/逆転移を理解し、治療に活かすこと」と思われます。


臨床心理学 > 基礎理論 > 転移 2018.01.16

転移…クライエントが、過去に重要な他者(両親など)との間で生じさせた欲求、感情、葛藤、対人関係パターンなどを、別の者(多くの場合は治療者)に対して向ける非現実的態度。愛着欲求や依存欲求が向けられることを陽性転移、敵意や攻撃欲求が向けられることを陰性転移と言います。

逆転移…治療者側がクライエントの示す転移表現に対して、感情的に反応を返すこと。逆転移を自覚するために、治療者は、教育分析や自己分析を通して、自分の中にある無意識の欲求、感情、葛藤などを洞察する必要があります。


まとめ

精神分析療法は現代に普及している様々な精神療法に影響を与えたものであり、精神医学に携わる者であれば是非とも一度本腰を入れて勉強しておくことが望ましい。特に転移・逆転移を理解することが重要。「この患者さん、とても慕ってくれるなぁ、嬉しいなぁ」「なんだか気難しい、怒りっぽい患者さんだなぁ、恐いなぁ」…と感じたとき、それは面接者を過去の人物(自分に優しくしてくれた人、自分を責め立てた人)に見立てた転移なのかもしれない。「流石にそこまで言わなくても良いじゃないか、失礼な患者さんだ!」「もう診察するのが億劫だ…」と感じたとき、それは患者さんに対する面接者の逆転移なのかもしれない。適切な距離を維持し、両者の間に生じた感情を客観的に捉えてこそ、一人前の精神分析家と言えるでしょう。

以上。