医局日記

【精神科の実際】~精神科の「入院適応」とは~

10月22日の日記では「精神科の入院形態」について解説しましたが、今回は「そもそも何で精神科に入院せにゃならんのだ?」という点について解説。主には任意入院の患者さんの場合を想定した内容です。


診断と治療社 精神科研修ノート 改訂第2版
ISBN:9784787821904
P.166 入院適応の決定 より



外来との違い

日常生活を続けつつ、病院やクリニックに通う。まぁ、普通はこっちですよね。
7月9日の日記で紹介した自立支援医療制度も、「なるべく入院せず外来で治療しましょう」という国の方針に基づくもの。

しかし精神科の治療においては
・外来通院だと上手くいかない、症状が悪化しやすい
・(逆に)入院よりも外来通院でなければ意味が無い、治りにくい
というケースがあるので、外来の方が常に良いとも限りません。

外来通院は「ある程度、病気の自覚があり、病院に通う必要があることを理解している」のが前提となるため、例えば
・お薬の管理が出来ておらず、全く飲まなかったり一気飲みしたりしてしまう
・(病気の原因を調べるための)検査を拒否しており、ただ対処療法のみを求め続ける
という方の場合は、入院した方が安全かつ確実な治療効果が期待できます。

逆に「日常生活、社会生活に復帰する」というのも精神科治療における大事な目標ですから、
・入院生活の居心地に慣れてしまい、入院が長期化してしまっている
・入院すると直ぐ良くなるけど、日常生活に戻ると直ぐストレスで症状が再発する
という方の場合は、むしろ外来通院でなければ根本的な治療にならない、と言えます。


入院の目的

主に3つの目的があります。


その1 検査

精神科治療において忘れてはいけない、「身体の病気を原因とした精神症状」の可能性。脳腫瘍、脳炎、内分泌疾患、薬物中毒など。こうした原因を見落とすと後遺症になってしまう恐れがあるため、疑わしい場合には早めに検査して原因を調べる必要があります。


その2 安全確保

幻覚、妄想、抑うつ状態、といった症状が重症化すると、自傷や他害にまで発展する危険性があります。激しい興奮状態でなくとも、「もう何日もろくにご飯を食べていない」「身体の病気の治療がほったらかしになってしまっている」でも危険な兆候です。こうした場合は入院を躊躇うべきではなく、やむを得ない場合には非自発(つまり強制的)入院となります。



その3 慢性期治療における治療手段として

①外来では出来ない治療法
rTMS(磁気刺激法)、mECT(電気けいれん療法)、クロザピンなど、こうした治療法は入院でなければ導入できません。外来通院治療でやれる事は全て試したが、それでも治らない…という場合、こうした治療を導入する価値は大いにあるでしょう。
特殊な治療法に限らず、入院森田療法など一部の精神療法、カウンセリングは、入院してじっくり時間をかけて取り組んでこそ真価を発揮するものです。

②身体の治療と並行して
使いたいお薬、試してみたい治療法があっても、副作用とか身体の病気への影響が懸念されるため出来ない…など。入院であれば、万が一身体に影響が出た場合でも素早く対処できるため、安全です。
(ちなみに我らが大学病院が最も得意とする分野。あらゆる診療科の先生が居ますので、様々な合併症治療と並行しての精神科対応を担っています)

③休養
実は「入院しただけ」で症状が改善する人、けっこう多いです。日常生活を離れて休養に専念する、それ自体も精神科においては有効な治療法のひとつ。病気が長引いている方々においては、それを支える家族など支援者も疲弊していることが多く、お互いに一旦距離を置きお休みすることでお互いに余裕を取り戻し、行き詰っていた治療が一歩前進することがあります。


まとめ

私見になりますが「入院を避けている患者さんこそ、入院すべき」というケースが多いと感じます。外来通院を続けてきた患者さんが徐々に調子を崩し、いよいよ生活に支障が出てきてから入院を勧めても「入院だけはしたくなかったのに!」「もうおしまいだ!」と必要以上にショックを受けてしまう場面を見たことが、少なからずありました。

入院=重症、というのが一般的なイメージかもしれませんが、精神科の場合はむしろ「重症化する前に入院を体験しておく」ことが推奨されます。治療の選択肢を広げ、いざという時の駆け込み寺的な安全地帯を知っておくことで安心要素が増え、外来通院での治療効果も高まります。

外来では診察の時間が限られていますが、入院であればじっくりと時間をかけて診察してもらえるので、正しい診断、適切な支援に繋がることも期待されます。
(あと主治医の先生の、外来では分からなかった意外な一面を見ることも出来たり…(・ω・)


以上。