医局日記

【精神医学】~抗精神病薬、クロザピンとは~

薬事日報 抗精神病薬「クロザリル」を発売 ノバルティスファーマ 2009年08月03日 (月) より写真


※参考資料:クロザリル適正使用委員会(CPMS運用手順、『クロザリルの説明文書(pdf形式)』)


クロザピン(クロザリル(R))とは

分類としては”抗精神病薬”、つまり統合失調症のお薬の一種。ただし他の薬剤と異なり「治療抵抗性」に適応が限られる

治療抵抗性とは、「お薬を十分な量まで使ったのに症状が治らない!」という反応性不良、または「副作用が出てしまって、十分な量まで増やせない!」という耐容性不良のこと。

2009年から日本国内で導入され、日本で行われた臨床試験では何と、治療抵抗性とされる方のうち約57〜67%で精神症状の改善が認められた

「そんな良い薬あるなら最初から処方してよ!」…と思うかもしれないが、最初に出せない理由があります。


副作用

白血球減少症・好中球減少症・無顆粒球症

もっとも注意しなければならない副作用は無顆粒球症です。

白血球は病原菌と戦い、体を守る働きをしています。白血球は顆粒球、リンパ球、単球からなっています。さらに顆粒球には、好中球、好酸球、好塩基球の3つの種類があり、この中で好中球の数がもっとも多いのです。クロザリルは、白血球のうち、体内に入った細菌を殺す重要な働きをする好中球の数を著しく減らすことがあり、白血球全体の数が著しく減ることを『白血球減少症』、好中球の数が著しく減ることを『好中球減少症』といいます。さらに、好中球を主とした顆粒球がほとんどなくなった状態のことを『無顆粒球症』といいます。

無顆粒球症が起こると細菌の感染から体を守る働きがほとんど失われてしまうため、軽い感染症にかかったときでも重症になる可能性があり、死亡する危険性があるため、適切に対処する必要があります。

日本で発売後に行われた調査では、クロザリルを服薬した1,860人中の21人(1.1%)の方に無顆粒球症が副作用として報告されています。

対策

この無顆粒球症を早期に発見してその危険性を最小限にとどめるために、日本ではクロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)という制度を導入しています。この制度によって、クロザリルの投与前および投与中には定期的な血液検査を必ず行って白血球数や好中球数を測定することが義務づけられ、血液検査が行われていないと処方ができない仕組みになっています。

無顆粒球症の多くはクロザリル投与開始後の早い時期に起こることがわかっています。このため、クロザリルは入院して投与を開始すること、クロザリル開始後26週間(6ヵ月間)は毎週の採血による白血球数や好中球数の確認が義務づけられています。


糖尿病

クロザリルの服薬中に血糖値が増えて、新たに糖尿病になったり、元々ある糖尿病を悪化させたりする可能性が他の薬に比べて高いといわれています。糖尿病が急激に悪化した場合には、糖尿病性ケトアシドーシス糖尿病性昏睡といった深刻な状態になり、死に至ることもあるため、適切に対処する必要があります。

クロザリルを服薬した1,860人中の242人(13.0%)の方に高血糖、糖尿病などが副作用として報告されています。


その他の副作用

心臓

まれですが心臓に対して強い副作用(心筋炎、心筋症、心膜炎、心のう液貯留)が起こることがあります。

てんかん発作

全身または部分的な筋肉のけいれん、意識障害、発作前の記憶がない、突然筋肉の緊張がなくなるなど…が起こりやすくなる可能性があります。

その他…、流涎過多(よだれが多く出る)、便秘、傾眠(眠け)、発熱、倦怠感(だるい)、体重増加、などがあります。


外来治療に移行する条件

先述の通り、クロザリルを開始するためには入院が必須です。退院できる条件としては…

①クロザリル開始後3週間以上経過していること
②クロザリルの適切な投与量が明らかになり、その投与量で1週間以上入院により経過をみていること
③その方と同居して、症状を確認してクロザリルの服薬や通院を支援する人(支援者)がいること(退院後が単身生活になる方はクロザリル開始後18週までは退院できません。)

の3つを全て満たす必要があります。


まとめ、補足説明

クロザピンは治療抵抗性(お薬を増やしても効かない、お薬の副作用が出てしまった)の統合失調症に対して有効で、5~6割の患者さんで精神症状の改善が期待できるお薬です。ただし無顆粒球症という重大な副作用リスクがあるため、使用するためには様々な条件を満たした上で、専門の医師による判断を受け、専門の医療機関に入院いただき、ようやく処方できる…というハードルの高いお薬です。

このため「そ、そこまでしなくても…」と、患者さんは勿論、医療従事者からも怖がられ、敬遠されがち。
しかし実際に使用経験豊富な先輩方から話を聞くと、「もう絶対治らないだろう、と思っていた重症患者さんが驚くほど改善した」「あらゆる薬を試しても効かなかった患者さんに、効いた」など、非常に好評でした。

ちなみに我らが佐賀大学精神科でも、クロザピンの処方は可能です!
ご希望の方、詳しく知りたい方はぜひ、主治医の先生にご相談ください。


以上。