【精神・神経医学】~認知症の鑑別疾患~
学生さん、研修医さん向けに。
臨床において重要な「鑑別」に絞って解説します。
医学書院 認知症疾患診療ガイドライン2017
ISBN:978-4-260-02858-5
認知症疾患診療ガイドライン2017(web版。無料で読めます)
まず「治療可能な認知症(treatable dementia)」を見落とさないこと!
認知症を疑った場合、画像検査と血液検査は必須である。
正常圧水頭症
東京女子医科大学 東医療センター脳神経外科 正常圧水頭症
外科手術で治る唯一の認知症。①認知症状がでてきた、②歩行が遅く歩きにくくなった、③おしっこが間に合わなくなってきた、という3つの症状がある患者さんの中には「正常圧水頭症」という脳神経外科で手術をすれば症状が治る病気が含まれています。
(MRI検査所見)脳脊髄液の溜まっている脳室という場所の拡大や脳のこめかみあたりにある両側のしわの幅が広くなっているにもかかわらず脳のてっぺんの方にあるしわが幅狭くなっていることが正常圧水頭症の重要な所見です。
外傷(慢性硬膜下血腫など)
東京女子医科大学 東医療センター脳神経外科 慢性硬膜下血腫
軽微な頭部外傷などの後、通常1~2ヶ月かけて、じわじわと血が貯まってくる病気です。頭痛、物忘れ、認知症症状などの精神症状、失禁、半身に力が入らない、歩行障害、などの症状を呈する事が多いです。基本的には正しく診断がなされタイミングを逸することなく治療が行われれば完治する、予後のよい疾患です。
内分泌疾患(甲状腺機能低下症など)
公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット 甲状腺機能低下症
甲状腺は、頚部、気管の前に位置するホルモンを産生する臓器の一つです。甲状腺機能低下症の代表的な症状としては、疲れやすい、寒さに弱い、体がむくみやすい、眉がうすくなる、体重増加などが見られます。高齢者では認知症(物忘れ)がその症状であることがあります。
代謝性疾患(ビタミンB12欠乏症など)
ビタミンB12欠乏症 ~認知症の原因になる??~ 2018/07/12
ビタミンB12は魚貝類や牛・豚・鶏の肝臓(レバー)に多く含まれており、野菜にはほとんど含まれていません。ビタミンB12は神経細胞などの細胞膜の合成に関わっており、不足すると記憶などの情報伝達に問題が生じることがあります。これが認知症の原因となる場合もあるのです。他にもビタミンB1や葉酸不足も認知症の原因となることがあるので、普段の食生活において、肉・魚・野菜をバランスよく食べることは、とても重要です。
感染症
梅毒(12月24日の日記参照)、ヒト免疫不全ウイルス、脳炎、脳膿瘍、脳寄生虫など。
中毒
アルコールや薬物によって認知症っぽい症状が出ることもあるし、他には金属(水銀、マンガン、鉛)、一酸化炭素なども原因となり得る。周りでも同じ症状の人が居る、という場合には要注意。職業・居住区など生活歴をしっかり確認しましょう。
他の精神疾患
11月10日の日記で解説した内容使いまわし。
急激に発症したのであれば「せん妄」が疑われるし、気分の落ち込みや悲観的な言動が目立つなら「うつ病」かもしれない。発症が若い場合は統合失調症の可能性も忘れずに。それぞれ治療薬が異なります。
※補足 エミール・クレペリン(Wikipedia)
Emil Kraepelin(1856-1926) ドイツの精神科医。「精神科医にとっての診断の価値は、将来を予見することである」と述べた偉い先生。それまで区別されていなかった”精神病”の区別・分類の必要性を説き、「早発性痴呆」(後の「統合失調症」)と「躁うつ病」をはっきり分けたことで有名。この時代、早発性痴呆の患者は4分の1だけが回復し、残りは痴呆へと進んでいた。
この時代にも既に、鑑別・診断の重要性は指摘されていたようです。
まとめ
「認知症の症状をきたす疾患」を挙げたらキリが無いほど、脳神経に障害をきたす疾患は沢山あります。その中でも代表的な「治療可能な疾患」に絞って紹介しました。あと(当たり前すぎて)忘れがちですが「加齢による自然な物忘れ」も、きちんと鑑別しましょう。「認知症になってしまったに違いない!早くなんとかしないと!」…と気持ちが先走って治療を求めた結果、不要な検査や治療により、かえって健康を損ねてしまっては元も子もありません。
何はともあれ一人で抱え込まず、まずはご相談を!
以上。