医局日記

【国試】~第112回、つづき~

良問が多いと気付き、引き続き解説。
本当は臨床問題(〇〇歳、〇〇の症状で~…という長文問題)も扱いたいけど、尺の都合で控えます。ご容赦を。

112-B31 83 歳の女性。右大腿骨頸部骨折のため手術を受けた。手術当日の夜は意識清明であったが、手術翌日の夜間に、死別した夫の食事を作るために帰宅したいなど、つじつまの合わない言動が出現した。これまで認知症を指摘されたことはない。この病態について正しいのはどれか。
a 生命予後は悪化しない。
b 抗精神病薬は禁忌である。
c 認知症の初発症状である。
d 意識の混濁が短時間で変動する。
e ベンゾジアゼピン系薬剤が適応である。


せん妄


せん妄予防のコツ 静岡がんセンターの実践
ISBN978-4-7911-0962-3

せん妄の誘因で注意しなければならないもののひとつが「医薬品誘発性せん妄」です。
特にオピオイド、ステロイド、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬によるせん妄誘発はよく経験されます。
特に高齢者の入院治療場面においては、ベンゾジアゼピンは”飲んでも中断しても問題が起こりやすい薬剤”であることに留意する必要があります。(誘発or離脱

(カプラン臨床精神医学テキスト第3版によると)せん妄は予後不良の兆候でもあります。せん妄患者の3ヶ月死亡率は23~33%、1年死亡率は50%に達します。

不穏時指示については一般的に、抗精神病薬の使用が推奨されています。

転倒リスクが高まる「せん妄」対応法

「認知症は進行がゆっくりで、症状に大きな変化はありません。一方、せん妄は突然出現することが多く、しかも1日のうちで症状が変動することが特徴です。うつ病では一般的に記憶に問題がなく、見当識障害はあまり見られません。しかしせん妄は記憶障害や見当識障害が出現することが多いので、これらを手がかりに鑑別するとよいでしょう」

a 生命予後は悪化しない。 × 予後不良!
b 抗精神病薬は禁忌である。 × 治療薬として使用される。
c 認知症の初発症状である。 × 認知症とは異なる。
d 意識の混濁が短時間で変動する。 〇
e ベンゾジアゼピン系薬剤が適応である。 × せん妄を誘発する、むしろ禁忌!


112-D-4 Tourette 症候群について正しいのはどれか。
a 乳児期に発症する。
b 発達の退行を伴う。
c 音声チックを認める。
d 6か月以内に症状は消失する。
e 場面による症状の変動を認めない。



Tourettes – the highlights.(YouTube)

難病情報センター 神経系疾患分野|トゥレット症候群(平成22年度)

4. 症状
多くは6歳頃、瞬き、頚振りなどの単純運動チックで始まり、咳払い、発 声など単純音声チックが加わる。ひとつのチックが消失すると新しいチックが出現するなど、2~3週、2~3ヶ月の周期で増悪・寛解を繰り返し、一年以上経 過する。10歳頃より複雑運動チック、複雑音声チックが出現する。「汚言」は複雑音声チックの一種であるが必発ではない。単純チックは思春期以後自然寛解 するが、複雑チックは10歳以後併発症を伴い永続、難治化する。発症は男性優位であり、家族発症が多い。

a 乳児期に発症する。 ×6歳頃。
b 発達の退行を伴う。 ×ADHD、強迫性障害など合併症はあるが「退行」とは違う。
c 音声チックを認める。 〇
d 6か月以内に症状は消失する。 ×1年以上経過する。
e 場面による症状の変動を認めない。 ×環境調整が大事、との記載あり。


112-F37 正しいのはどれか。2つ選べ。
a 感情失禁は適応障害でみられる。
b 両価性はうつ病に特徴的である。
c 自生思考は強迫性障害でみられる。
d 作話は Korsakoff 症候群でみられる。
e 言葉のサラダは統合失調症に特徴的である。



精神症候学 <第2版>
ISBN 978-4-335-65141-0

情動失禁(感情失禁)感情の質的障害であり、わずかなことで泣いたり笑ったり怒ったりする。主に老年認知症、脳血管性認知症など脳器質性疾患にみられる。

両価性(アンビヴァレンス)感情の質的障害であり、同一の対象に愛と憎、快と不快など相反する感情を同時に抱くこと。統合失調症に典型的な完全両価性、強迫にみられる不完全両価性、嫉妬妄想の潜伏両価性など。

自生思考(自生観念)思考体験の障害であり、今考えている内容と何ら繋がりのない考えがひとりでに浮かんでくる現象。自我の統制が緩む、軽微な自我障害ともいえる。

作話言語活動内容の異常であり、実際に体験しなかったことが誤って追想され、体験したかのように語られる。内容も変化しやすい。当惑作話(記憶減退を埋め合わせる)と空想作話(空想・想像傾向が強く生産的)に分けられる。前者は老年認知症、後者は空想虚言、妄想病、コルサコフ症候群などにみられる。

言葉のサラダ思考の流れ、まとまりの障害。観念同士の意味のある結びつきを欠く支離滅裂が高度になったもの。概念が崩壊し、無意味な語や分の羅列になる。意識清明字の特に統合失調症にみられる。

a 感情失禁は適応障害でみられる。 × 認知症、脳血管障害に特徴的。
b 両価性はうつ病に特徴的である。 × 統合失調症に特徴的。
c 自生思考は強迫性障害でみられる。 × 自我障害。(つまり統合失調症、解離性障害と思われる)
d 作話は Korsakoff 症候群でみられる。 〇
e 言葉のサラダは統合失調症に特徴的である。 〇


まとめ

せん妄は臨床で必ず出会う疾患であり、国家試験にも必ず出題される。認知症との鑑別、治療薬・禁忌薬、は抑えておこう。
トゥレット症候群は、小児科領域と被る疾患であり、出会う頻度はそれなりに高いです。
思考の障害については7月27日の日記でまとめましたが、ぼちぼち感情、妄想、などもまとめていきたい。

以上。