【精神科のお薬】~抗不安薬について~
羊土社 本当にわかる精神科の薬はじめの一歩
ISBN:978-4-7581-1827-9
私の手持ちが改定前の2013年版なので古い情報があるかも。
抗不安薬とは
国内で採用されているほぼ全ての抗不安薬はベンゾジアゼピン(Benzodiazepine)系と呼ばれる薬剤。ベンゾジアゼピン受容体に作用し、隣接するGABA受容体の作用を高め、神経の働きを抑制してくれる。抗不安、鎮静、眠気、抗けいれん、筋弛緩作用を示す。実は同系統の睡眠薬と作用機序は同じ。眠気をきたしやすいか、抗不安作用がメインか、の違い。なので我々精神科医は、抗不安薬・睡眠薬という呼び方より「BZ(ベンゾ)系の薬」と呼ぶことが多いです。当然、副作用も同じ。ベンゾ系の薬は副作用に特に注意する必要がありますので、先に解説。
BZ系薬の副作用
持ち越し
翌日まで眠気が残ってしまうことがある。本人に眠気の自覚が無く、集中力低下や反応速度が鈍くなっているパターンもある。
ふらつき、転倒
筋弛緩作用、反射神経の抑制による副作用。特に高齢者の場合、転倒、骨折の原因となりうるため危険。
記憶障害(前方性健忘、せん妄)
「薬を飲んだ後から寝付くまでの記憶が抜け落ちる」という、前向性健忘をきたす。更には、身体の病気で入院した際に「せん妄」をきたしやすい。(せん妄については7月1日、11月10の日記で書きました。)
依存形成
「短時間で効果を実感しやすい」お薬は依存性が高い。特に抗不安薬・睡眠薬であるベンゾ系は、使っているうちに「薬の効き目が切れること自体が不安」「薬が無いと眠れない」という悪循環に陥り、薬を減らしたくても減らせない、止められない…結果、どんどん薬の量が増え、長期間(年単位など)の処方が続き、依存が形成されてしまうことがある。
適切な使い方
作用時間によって使い分けます。
大前提として「最低限の量で」「最低限の期間にとどめて」使用すること!
短時間で効くタイプは「不安が高まったとき、パニック発作が起きたとき」の頓服薬として有効。持ち越しの副作用も生じにくい。その分、依存しやすいので要注意。毎日使うのは控えましょう。
長時間じわーっと効くタイプは持ち越しに要注意だけど、発作が起きるのを抑えてくれるので服用回数が少なくて済む。短時間タイプに依存してしまった場合の依存離脱にも活用されます。
「それでも効かない、治らない」場合には…
入院での薬剤調整を推奨します。
ベンゾ系を多剤、多量使うと、ふらつき、注意力低下などの副作用ばかりが目立ち始め危険です。事故や怪我の原因となる可能性があります。
まとめ
現在、日本では「ベンゾジアゼピン系のお薬は30日分を超えて処方できない」と厳格に定められています。
勿論、短期間の使用に限ればとても有効なお薬なのですが…副作用や依存形成には十分な注意が必要であり、こうした対策が取られる程に深刻な問題なのです。
きちんと「最低限の量、最低限の期間」で済ませるためにも、処方する医師の実力が問われる薬と言えるでしょう。
以上。