医局日記

【精神疾患分類】~ICD-11へのアップデートに備える~

国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が公表されました

【国際疾病分類(ICD:International Classification of Diseases)とは】

世界保健機関(World Health Organization, WHO)が作成する国際的に統一した基準で定められた死因及び疾病の分類。
我が国では、統計法に基づく統計基準として「疾病、傷害及び死因の統計分類」を告示し、公的統計(人口動態統計等)において適用している。また、医学的分類として医療機関における診療録の管理等においても広く活用されている。

2018年6月、第11回改訂版(ICD-11)が公開されました。現行のICD-10への改訂(1990年)以来、約30年ぶりの改訂となります。


WHO ICD-11

まだ日本語訳、解説書が出ていないため、大分類については自力で解説します。
分かりやすさ優先で。正しい分類名よりも、代表的な疾患名など優先。

6 精神障害、行動障害、または神経発達障害(Mental, behavioural or neurodevelopmental disorders)
6A 発達障害、統合失調症、緊張病、気分障害
6B 不安障害、強迫性障害、PTSD、解離性障害、摂食障害
6C 排泄障害、心身症、依存症、衝動調整障害、破壊・反社会
6D パーソナリティ障害、性倒錯、虚偽、せん妄、認知症
6E 妊娠関連、その他二次性

7 睡眠-覚醒障害(Sleep-wake disorders)
7A 不眠、過眠、睡眠時無呼吸、リズム障害、むずむず脚
7B 睡眠覚醒障害

8 神経疾患
8A てんかん

ナンバリングは勿論、カテゴリ分けも随分変わったぞ!
ICD-10では「F31双極性障害」という表記でしたが、ICD-11では「6A61双極II型障害」。
DSM-5(アメリカ精神医学会による分類)に近くなったみたいです。


・睡眠を重要視
ICD-10ではF5(摂食、睡眠、性機能、妊娠、依存以外の物質乱用)という妙にゴチャゴチャしたカテゴリーがあったが、その中から「睡眠」カテゴリーが「7」として独立。G分類(神経疾患としての睡眠障害)と統一され、精神疾患~神経疾患の間に位置する一大ジャンルとなった。おそらく「精神疾患として扱うには多過ぎる症状」という点が考慮されたのだろう。そして症状ごとの疾患分類も結構細かくなった。睡眠の治療というのは需要の割に意外と専門家が少ないため、中途半端な治療に陥らないよう「しっかり診断してから治療しなさいよ」という意図があると思われる。

・発達障害、統合失調症、気分障害は同一カテゴリに
ICD-10ではF2(統合失調症)、F3(気分障害)、F8~9(発達障害)と別々に分かれていたものが全て、6Aという同一カテゴリに纏まった。ゴチャゴチャして纏まらないなぁ…と初見では感じたが、よくよく考えると「精神科救急対応を要することがある、代表的な精神疾患」なんですよね全て。将来的に「この精神科病院は6A系です」みたいな感じで、精神科病院としての対応力の指標、キーナンバーとして用いられるようになるかも。

・新しい疾患
例えば6C51ゲーム障害。30年前のICD-10時代とは異なり、時代が生んだ新たな疾患を診断できるようになった。

・疾患概念、診断名の変化
例えば6D1のパーソナリティ障害。ICD-10時代の疾患分類(12月4日の日記参照)から大きく変わり、旧病名が消滅した。「軽度、中度、重度」という重症度による分類と、「否定的、脱抑制、離隔、非社会性、制縛性」という疾患特性による分類となった。

・(C、Dカテゴリがカオス?)
A、B、Eカテゴリは何となく背景が分かる。メジャーな疾患、病態が近い疾患、二次性、というかたちで分類してある。
…C、Dが良く分からん。
Cの場合、例えば6C00.0夜尿症、6C20身体的苦痛症、6C41大麻依存症、6C70放火癖…と、共通性が見えない。ゴチャゴチャしてる。
Dも、6D31窃視症、6D5作為症、6D7せん妄、6D8認知症…なんか納得いかない。何をもってCと分けたのかも分からん。せめて認知症関連は、独立ジャンル化させた方が良かったのでは…。
私の知識では上手く解説できん。解説書の登場が待ち望まれる。


★とりあえず6A系を把握しておこう!

流石に全カテゴリ、全疾患の解説なんてやろうとしたら本1冊分の量になってしまう。
とりあえず精神科医療従事者としては最低限、6A系について把握しておく必要があるだろうから、それに絞ってまとめます。

※参考資料

医学書院 精神医学 Vol.61 No.3 2019年 03月号
特集 ICD-11のチェックポイント


肥前精神医療センター 主な診療スタッフの紹介
本村 啓介 精神科医長(司法精神医学)より

肥前精神医療センターの本村先生をはじめ、多くの先生方がICD-11のポイントについて解説しています。
まだ本格的な解説書が無いなかで、かなり分かりやすく纏まっており、助かる。


6A0 神経発達障害

ICD-10ではF7~8という後ろの方に書かれていた疾患群が、先頭にお引越し
ICD-10と比べると、色々、大きく変わってます。
・ICD-10では精神疾患に分類されていたF95.2トゥレット症候群は「8」神経疾患に移動。
・F91行為障害は6Cカテゴリに。
・F93分離不安障害、F94選択的緘黙、F94.1反応性愛着障害、F98.3小児の異食、は6Bカテゴリに。
ICD-10の時代には「子供の頃に多い症状」でカテゴリ分けしたっぽいですが、今回は「発達」的視点を重視した結果、らしい。例えば「分離不安って、親に対してだけじゃなく、配偶者相手でも起こるぞ」とか。病態の把握、支援計画を立てる上では、こっちの分類の方が役立つと期待される。

6A00 知的発達障害
6A01 発達言語障害または言語障害
6A02 自閉症スペクトラム障害
6A03 発達学習障害
6A04 発達性運動協調障害
6A05 注意欠陥多動性障害
6A06 ステレオタイプの運動障害


6A2 統合失調症

ICD-10では「妄想型」「破瓜型」「緊張型」「残遺型」「単純型」など亜型分類されていましたが、それら殆どが「統合失調症」でシンプルに統一されました。小数点以下は「重症度」「単発・再発エピソード」などで決まる。例えば「 6A20.11 統合失調症、複数のエピソード、部分寛解」という感じ。それ以外は大きな変更なし。

6A20 統合失調症
6A21 統合失調感情障害
6A22 統合失調型障害
6A23 急性一過性精神病性障害
6A24 妄想性障害


6A4 緊張病(カタトニア)

もともと「緊張型統合失調症」という統合失調症の亜型と考えられていたものが、独立した。「統合失調症だけじゃなくて、むしろうつ病の方が緊張病症状(カタトニア)は出るぞ?」という見解が主流になったのが背景らしい。

6A40 精神疾患に関連する緊張病
6A41 物質、薬物による緊張病


6A6 双極性障害、気分循環症

ICD-10だと「I型(躁状態が激しい)」「II型(うつ状態がメイン)」の区別が無かったのですが、DSM-5での分類に合わせた形になりました。純粋な「躁病」という病名は消滅し、躁エピソードが1回でもあれば、双極性障害と診断されることになりました。あと気分循環症と気分変調症の2つ、ICD-10では「F34.0気分循環症」「F34.1気分変調症」と兄弟みたいな関係でしたが、循環症は双極性障害に、変調症はうつ病に、それぞれ振り分けられました。

6A60 双極I型障害
6A61 双極II型障害
6A62 気分循環性障害


6A7 うつ病、気分変調症

大きな変更点としては「6A73混合性抑うつ不安障害」。これ、ICD-10では「F41.2」つまりF4不安障害圏に属するものだった。「うつ病に不安症状を合併すると予後がより不良」という説があり、実際にそうした患者さんが少なくない、という背景があるみたい。あとは先述の通り、気分変調症がこちらのカテゴリに所属。

6A70 単一エピソードうつ病
6A71 再発うつ病
6A72 気分変調性障害
6A73 混合性抑うつ不安障害


まとめ

未だ殆どの病院、医療機関においてはICD-10が用いられていますが、そう遠くない未来、ICD-11へのアップデートを求められることになります。ICD-10から変わった点が結構多いので、よくよく勉強しておき、アップデートに備えましょう。診断、分類、カテゴリについて把握しようと学ぶだけでも、各疾患の特徴や他疾患との関連性などが理解できてくる。臨床スキルの向上にも役立つと思われます。(・ω・)


以上。