医局日記

【宇宙ネタ】~金星でのスイングバイ(重力アシスト)~

9月22日の日記で紹介した、例の水星探査機(BepiColombo)、
予定通り10月15日に金星を通過、スイングバイに成功しました。
期待通り、金星の写真が送られてきたぞ!


Twitter みお(MIO)さん(@JAXA_MMO)

10月15日12時58分(日本時間)、金星スイグバイ最接近!
地面は見えないけれど、明るく輝いていてとってもキレイだったよ!



SCIENCES ET AVENIR 2020.10.16 より

水星までの旅路の詳細は上記、みお(MIO)さんのTwitterに詳しく分かりやすい動画・図が公開されてます。
今回の金星スイングバイも動画バージョンが公開されてます(コマ送り程度だけど)。

割と歴史的瞬間なハズなのだが、日本のニュースじゃ全然扱われていない。
…たぶん絵の問題もあるな。金星がピンポン玉にしか見えなくて(・ω・`)

次回は2021年8月11日、金星2回目スイングバイ。
水星到着は2025年だから、まだまだ旅は始まったばかりだ。無事を祈る。


【おまけ】~スイングバイ航法~

FNの高校物理 惑星探査機のスイングバイ航法 より

スイングバイ航法の本質は運動量保存則です。
旨くやれば、探査機は惑星の公転速度の2倍以上の速度を得ることができる。

つまり理屈としては弾性衝突での速度変化と同じ。

KerbalSpaceProgram Wiki “Gravity Assist” より

衝突は斥力による速度変化だが、スイングバイは引力を利用するので、
惑星の後ろを横切ることで加速し、
惑星の前を横切ることで減速する。
上図の場合…探査機が速度vで接近。赤丸の天体の後ろを通った事で、天体の公転速度Uの2倍の速度を貰えたことになる。


~実際に計算してみよう!~

まず「スイングバイに頼らず、地球軌道から水星軌道まで最短で向かう」ホーマン遷移を計算してみる。

20201018_01

必要となる式、数値は上図にまとめました。で、計算してみた結果…
V(遠点速度、つまり地球出発時)=22255 m/s
v(近点速度、つまり水星到達時) = 57492 m/s
となりました。
つまり地球出発時に29780 – 22255 = 約7.5km/s減速し、水星到達時に57492 – 47360 = 約10.1km/s減速。
合計で約17.6km/sもの加速が必要になる。絶対に燃料足りなくなる。
(ちなみに時間的には、僅か65日で到着。早い)


20201018_02

次に「とりあえず金星軌道まで」のホーマン遷移。計算式は最初の図から使いまわし。
金星のデータとして、公転半径 1.082 x 10の11乗メートル、軌道速度3.502 x 10の4乗(m/s)。これを代入すると、

遠点速度:27292 m/s、近点速度:37735m/s、つまり
出発時の減速:約2.5km/s、金星ランデブー時の相対速度は2715 m/sとなる。
ここで金星スイングバイを利用すると、運動量保存則から

2 x 35020 – 37735 = 32305 m/s に変化。燃料を一滴も使わずに最大で約5.4km/s分、減速できる。

次に、金星→水星への遷移を計算してみる。
V(遠点:金星出発時の速度)=29249 m/s。32305 – 29249 ≒ あと約3km/s、減速する必要がある。
つまり1回の減速スイングバイでは足りない。よって実際、BepiColomboは金星で2回スイングバイを行うのだ。


宇宙の旅では、「時間」を有効活用することで、燃料を節約しつつ加速・減速し、遥か遠方まで辿り着くことができる。
ただし時間を掛ければ掛けるほど良い…という意味ではない。タイミングを合わせる必要がある。
燃料を吹かしまくれば短時間で辿り着けるが、とても割に合わないだろう。

現代人、みんな時間に追われてストレスフルな生活をしています。
「時間は短く結果は大きく」ばかりを求めるのは非効率的です。
「上手な時間の使い方」が、あなたの人生をより高く遠いところまで導いてくれることでしょう。


以上。