医局日記

【論文紹介】~火星往復シミュレーションと睡眠~

5月13日の日記で紹介した記事について、情報源となっている論文です。

PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America) February 12, 2013 110 (7) 2635-2640
Mars 520-d mission simulation reveals protracted crew hypokinesis and alterations of sleep duration and timing
Mathias Basner, David F. Dinges, Daniel Mollicone, Adrian Ecker, Christopher W. Jones, Eric C. Hyder, Adrian Di Antonio, Igor Savelev, Kevin Kan, Namni Goel, Boris V. Morukov, and Jeffrey P. Sutton

なお宇宙開発業界においては結構話題になってた実験みたいです。

Gigazine 2015年05月20日
520日間のひきこもり生活で「火星」への有人飛行をシミュレーションする実験に挑んだ6人の男たち より


【実験の要旨】
火星往復ミッションを想定した実験。
520日間(地球→火星への移動で250日、現地ミッション30日、火星→地球の帰り道が240日)のミッション期間を想定し、外部と隔絶された環境下で、選抜された6人の宇宙飛行士が共同生活した。
(ちなみに火星への遷移時間、私も自力で計算してみたことがある→8月23日の日記
リアリティのため、通信タイムラグまで再現という徹底ぶり。(流石に無重力ではないが)

【論文の要旨】

Fig.1
赤(覚醒時間)は、時間経過とともに短縮。最後に増加。
青(睡眠時間)緑(休憩時間)は、時間経過とともに増加。最後に短縮。
(最後に逆転した理由は「あともうちょいで実験終了だー!」という心理的期待によるものと思われる)


Fig.2
6名のメンバー個々の、A(活動)、B(睡眠)、C(休憩)、D(作業ミス率)。
dさんとfさんが、対照的な経過を辿った。
dさんは経過とともに「休憩時間は最短だけど、睡眠時間が長く、覚醒時間は長くなり、作業ミスは少なかった」。
fさんは経過とともに「休憩時間は多めだけど、睡眠時間が短く、でも覚醒時間は短く、作業ミスが最多だった」。
つまり”起きて休憩する時間より、がっつり睡眠とった方が仕事の効率が良くなる”と考えられる。


Fig.3
6名のメンバー個々の、分光分析と睡眠-覚醒サイクルの相関を図示したもの。
規則正しく光を浴びた5名のメンバーは、概ね規則正しい睡眠がとれた。
一方、Bメンバーは不規則な光を浴びた結果、リズムが崩れていた。

【まとめ】
閉鎖された環境下において、睡眠リズムが乱れ、仕事のミスが増える…といった現象は、南極基地なんかでも見られるらしい。
まあ色々と考察内容は多いけど、「規則正しく、光を浴び、起きてダラダラ休憩せずさっさと寝る!」これ大事。
実際の火星旅行では移動中の250日間以上、無重力で過ごすことになる。
…けど国際宇宙ステーションで1年以上過ごしてる人とかも居るから、まあ何とかなるでしょう多分。


【おまけ】火星との通信タイムラグを計算してみよう!~

20201016
純ホーマン遷移軌道で移動したと仮定した場合だけど、まあ大差ないっしょ。
前提となる数値は上図に示しました。
んで、計算してみた結果…
L(max:最も遠いとき)=1259秒(約21分)(太陽を挟むことになるので現実的には通信途絶)
L(min:最も近いとき)=261.2秒(約4分半)
L(dep:地球出発時)=533.7秒(約9分)
L(arr:火星到着時)=798.1秒(約13分)
という結果となりました。

久々に余弦定理とか使って計算した。高校生時以来だぞ。まさか役に立つ日が来るとは。


結論として、火星に到着して「到着しましたー!」と写メ送っても
「おめでとー」と返事が返ってくるまで最短で30分近く待たされることになる。
仕方ない。宇宙の旅では辛抱強さが大事です。


以上。