医局日記

【宇宙ネタ】~お得な旅行計画のためには~

http://saga-psychiatry.kir.jp/2020/06/14/2025/

6月14日の記事において、ホーマン遷移と呼ばれる航法を紹介した。
「最も燃料を節約できる航法であり、最もお得」と解説した私でしたが、

肝心なことを忘れていた。燃料はお得でも”時間が”かかってしまう。

そもそも、あの解説図自体がかなり曖昧だった。
「地球から火星に到達するまで」の旅行プランについて、この際きちんと計算してみます。


到達時間の求め方

2020.08.21_01

大雑把な航路図。(Rは火星の公転半径、rは地球の公転半径)

地球の公転方向に合わせて出発。まず楕円軌道に移行する。
楕円軌道の反対側(遠点)が、丁度、火星の公転半径に届くまで加速すればOK。

で、具体的な到着時間は「ケプラーの第三法則」より計算できる。

2020.08.21_02

t:地球の公転周期
r:地球の公転軌道半径
R:火星の公転軌道半径
T:楕円軌道の公転周期(今回求めたい答え)

とすると以下の計算となり、Tが求まる。

2020.08.21.03

到達まで、つまり片道の時間はTの半分になるので、約259日(8ヶ月半)かかることになります。

なお同じ理屈で火星の公転周期も分かる。686.40177947217日という結果。

2020.08.21_04


Googleで検索したら、ほぼ同じ値が出た。よっしゃ。

で、地球から火星に到達するまで259日ということは、火星の公転周期の0.376841倍なので、角度に直すと135.6°。

2020.08.21_05

これが地球出発時の、地球と火星の位置関係、ということも分かりました。
これで火星までの旅行計画はバッチリだ!



ちょっと違った。

https://www.businessinsider.jp/post-217567

BUSINESS INSIDER 2020年7月30日 NASAの火星探査車パーサヴィアランス、今夜打ち上げ。


最近、こっそりNASAが火星探査機を打ち上げてました。
記事に書かれているのは、「到達までおよそ7か月、2021年2月18日に到着予定」とのこと。


…あれ?8ヶ月半かかるはずでは?計算間違えたかな私(・ω・;)


考えられる理由としては2つ。

①地球と火星の公転は互いに微妙にズレてるので、もっと近づけるタイミングがある。
②準ホーマン遷移にて時間短縮している。

②について解説しよう。


準ホーマン遷移軌道

2020.08.21_06

地球を出発する際にもっと早く加速することで、もっとデカい楕円軌道に移行するのだ。

しかしその分、燃料を多く消費することにはなるが…実は、心配するほどでもない。

本来必要な速度:v
付け足した速度:Δv
増えた運動エネルギー分の速度:V

2020.08.21_07

運動エネルギーは速度の二乗に比例するので、初速が増えれば増えるほど加わるエネルギーが大きくなる。
軌道力学においては、目標に到達するまでの時間も短くなり、燃料の消費分、十分に元がとれるようです。

「宇宙旅行においては始めが肝心だ!とにかく出発時に全力で加速しろ!そっちの方がお得だから!」
これをオーベルト効果(Oberth effect)と言います。

https://en.wikipedia.org/wiki/Oberth_effect


で、具体的にどの程度時間を短縮できるのか?と計算しようとしたら、
楕円軌道を詳しく理解する必要に迫られたため、今日はここまで。