医局日記

【医局会】~高齢者のうつ病~

先週の続き。國武医長から紹介されたガイドラインについて解説。

https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/kibun.html

(`〇-〇)「日本うつ病学会から、2020年7月15日に”うつ病治療ガイドライン -高齢者のうつ病治療ガイドライン-”の最新版が発表されました。」
(`〇-〇)「web上で誰でもダウンロードして読むことが出来ます。若手の先生方、ぜひ目を通して欲しく」

(`・ω・)「ああ、あれか!僕も読んだよ!」

(`〇-〇)「流石教授、情報が早い…」


合計30Pですが、引用、目次ページを除くと20Pほどでまとまっています。


●高齢者の”うつ”の特徴

高齢者のうつ病では、しばしば思考制止や注意・集中力の低下を示し、一見認知症のようにみえる(うつ病性仮性認知症)。認知症以外にもせん妄や薬剤性のうつ状態、身体疾患に伴ううつ状態などは高齢者でよく目にする病態である。

高齢者のうつ病では薬物の副作用、有害事象が生じやすく、注意を要する。

若年発症のうつ病と比較して、高齢発症のうつ病はより慢性の経過をたどり、再燃率、身体疾患合併率、認知機能障害、死亡率などのアウトカムにおいて予後不良である(Ismail et al,2013)。


●双極性障害との鑑別

入院・外来を問わず高齢者の大うつ病エピソードの背景には、30%前後という高い頻度で双極性障害が存在し、そのうち相当数が単極性のうつ病と診断されているということになる。高齢者の大うつ病エピソードを診療する際は、成人期例と同様に過去の躁・軽躁病エピソードの有無を、本人や家族から聴取することが必須である。


●認知症との鑑別

認知症の原因疾患としてアルツハイマー型認知症(AD)がもっとも多い。AD では病初期から記銘力障害と想起障害の両方を認めるが、特に記銘力障害がより強く障害され、再認障害もみられる。遠隔記憶は比較的保たれやすい。一方うつ病では注意・集中の障害に加えて想起障害を認めるため、記憶の再生は不良だが、再認は保たれることが多い。

うつ病と比較してDLB で認められやすい臨床症状として、REM睡眠行動障害や嗅覚障害、起立性調節障害や排尿調節障害、発汗異常などの自律神経症状、向精神薬への過敏性などが挙げられる。パーキンソニズムでは初期には振戦は少なく、寡動や易転倒性が多い。

抑うつ状態と臨床上類似した状態にアパシーがある。「動機付け(モチベーション)の減弱ないし欠如」を中核とし、無感情、感情の平板化など情動領域の障害、興味喪失、無関心など認知領域の障害、発動性(自発性)の低下など意欲障害、行動領域の障害が現れる(Robert et al,2009;小林,2016)。


●rTMS(磁気刺激療法)は有効?

rTMS 療法は偽刺激と比較し、うつ症状の軽減に有効。rTMS 療法は認知機能障害を伴わない。したがって、高齢者のうつ病に対して、rTMS 療法は有用である。


●mECT(電気けいれん療法)は有効?

治療効果が薬物療法より速やかに得られる可能性がある(Spaans et al,2015)。一方、全身麻酔を要し、健忘などの有害事象が生じることから、自殺念慮が切迫した場合、低栄養状態にある場合、抗うつ薬による治療が忍容性により困難な場合などに選択される。



などなど。


まとめ

高齢者の”うつ”は、原因がうつ病とは限らないため鑑別・診断が困難。そして予後も悪いため油断してはいけません。原因となり得る他の疾患の特徴も良く把握した上で、しっかり病歴聴取・診察を行う必要があります。

具体的な治療法の選択については各論部分に詳しく書かれています。高齢者の場合、薬の副作用など有害事象が生じやすいこともあり、治療法も慎重に吟味・選択する必要があります。

少子高齢化に伴い、今後こうした「高齢のうつ」の患者さんは増えてくる可能性があります。
精神科治療に携わる者として、日々勉強を重ね、適切な診療を提供できるよう各自力をつけていきましょう。


以上。