医局日記

【精神医学】~性同一性障害、性的マイノリティ~

まだまだ私も勉強中なので、間違いあったらご指摘ください。


【LGBT】

L(レズビアン:Lesbian)
G(ゲイ:Gay)
B(バイセクシュアル:Bisexual)
T(トランスジェンダー:Transgender)
・MTF(Male to Female:体は男、心は女)
・FTM(Female to Male:体は女、心は男)

の頭文字。
性指向(恋愛対象)と性自認(アイデンティティ)に関する総称。1988年頃から用いられるようになり、2000年の時点では医学論文でもLGBTの表記がみられ始めた。日本においては2012年、電通がLGBTの調査をしたことがきっかけとなり、日本国民の多くがLGBTという言葉を知るようになった。


【「性同一性障害」の歴史】

西洋において、同性愛は宗教的な理由から「罪」「犯罪」として扱われており、精神医学においては「治療すべき病気」と考えられてきた。1968年のDSM-II、ICD-8の時点でも「性的逸脱」とみなされていた…が、実際のところ「治った」ケースは少なく、精神科医の間でも「そもそも治すものじゃないのでは?」との考え方が広まっていく。
1970年頃から米国内での議論が活発となり、米国精神医学会が同性愛者の権利を保障する声明を発表。これにより「同性愛は病気ではない」との見方が主となった。
1990年に作成されたICD-10(現在も使われています)においては「性同一性障害(GID:Gender Identity Disorder)」という診断名が記載され、「性指向自体は障害ではない」との注釈が加えられた。
最新版であるICD-11においては性同一性障害の診断名が削除され「性別不合」に変更。正式に精神疾患の分類から除外された。あくまで「障害ではないけど、当事者が望めば性別適合手術などの医療行為を受ける権利を保障する」ための定義とのこと。

日本では2001年、テレビドラマ「3年B組金八先生」がきっかけとなり、一般に「性同一性障害」という言葉が普及した。
2004年に「「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」(性同一性障害特例法)が施行。


【精神科の臨床において】

日本国内におけるLGBTの総数は不明だが、日本精神神経学会による 2012 年までの調査では,14,889 人(FTM 当事者が 9,610 人,MTF 当事者が 5,279 人)の受診者数が確認されており,全国で約 18,000 人と推計されている.あくまで医療機関を受診した人数であり、受診していない人はもっと多いと思われる。

受診された人達の場合、性別違和感を持ち始めた時期に関しては,半数以上が「物心ついた頃から」と回答しており,中学生までに約 9 割が性別違和感を持っていたとのこと。

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岡山大学学ジェンダークリニックを受診した1100人、多くが「自殺念慮」「自傷・自殺未遂」「不登校」などの問題を経て受診に至っていた。中学生時にはいじめを受け、不安症やうつ病などの精神疾患を発症している例も少なくない。

「性を意識し始める」思春期前期、周囲から「結婚や家庭を持つことの期待」を向けられる青年期後期、の2は大きなクライシスの時期であると考えられる。


【治療】

貝塚病院@福岡市のジェンダー外来における、身体治療のケースより転記。なおLGBTは性的マイノリティの総称なので、医療においては現在も「性同一性障害」の診断名を用いることになります。

精神科の専門医2名との丁寧な面談を通じて、性別違和の出現時期や程度、具体的な内容、家族構成、恋愛対象、リアルライフエクスピアリアンス(なりたい性別としての実生活を送る)の実現状況など、現在までの詳細な自分史をひも解き、別の精神的な疾患が隠れていないか、身体的な治療が適切なのか、そのペースや時期などを一緒に相談していきます。

染色体検査も行い、遺伝学的に正常な46XX型(女性)あるいは46XY型(男性)であり、性別違和が染色体異常によるものでないことを確認します。

精神的、身体的な診断が終了した時点で、有識者からなる第三者組織に身体治療の適否を判定してもらうために前述の精神科医2名による意見書、身体的診断を行った医師の作成した診断書等を合わせて提出します。この有識者会議で身体治療が適切であると判定されれば、いよいよ身体治療を開始することができます。

治療法はホルモン(男性ホルモンor女性ホルモン)、外科的治療。詳細は上記webで。


まとめ

精神科においては、性的マイノリティの患者さんに出会うことが少なくない。誰にも相談できずに悩みを抱え、うつ状態となったり、自傷・自殺に及んでしまう恐れがある。こうした事態を防ぐために大事なのは「LGBTに対する専門的な対応・治療」ではなく、「社会全体のLGBTに対する理解」を深めること。それが今日の精神医学におけるスタンスです。

性的マイノリティを長い間「病気」扱いしてきたのは他ならぬ精神医学であったため、精神科医である私自身、責任をしっかり果たしていきたいと思います。


以上。



※参考資料

精神科治療学 第31巻08号 特集:LGBTを正しく理解し,適切に対応するために 星和書店2016年

OUT JAPAN WHOが性同一性障害を「精神障害」の分類から除外しました 2019/05/27

岡山市の職員が知っておきたい性的マイノリティ(LGBT)の基礎知識(pdf)

医療法人 貝塚病院 ジェンダー外来