【書籍紹介】~エリクソンの催眠療法入門~
(・ω・)催眠療法に興味がわいた
(・ω・)松島先生!催眠の教科書とかありませんか?!
(`・v・)「よし貸してあげよう」
金剛出版 ミルトン・エリクソンの催眠療法入門―解決志向アプローチ(2001年発行)
ISBN:4-7724-0689-1
(・ω・)内容の紹介を始める前に基礎知識から解説。
ミルトン・エリクソン(Milton Hyland Erickson)(1901年~1980年)(Wikipedia)
催眠療法家として知られる精神科医、心理学者。精神療法にしばしば斬新な手法を用いた事で知られる。
彼は極めて重篤な身体障害に悩まされていた(ポリオ、色覚異常、失音楽症)。特にポリオにより、17歳の時に目を除く全身が麻痺した事は彼に重大な影響を及ぼした。彼は回復するまでの退屈しのぎとして自分の家族を観察して過ごした。(その時に培われた観察眼が、後の催眠療法に大いに役に立ったみたいです。)
精神医学も催眠も独学であった。彼は大学で医学教育を受けたが、当時の米国では適切な精神医学の教育は殆ど受けられず、又、催眠もきちんとしたカリキュラムがなかったからである。その結果、彼は自分独自の技法を次々に開発していく事となった。「治療に抵抗するクライエントなどいない。柔軟性にかけるセラピストがいるだけだ」。この言葉に端的に表されるように、彼の技法は「ユーティライゼーション(Utilization:利用できる物はなんでも利用する)」を旨とした、臨機応変・変化自在なもので、その名人芸は「アンコモン・セラピー」、「魔術師」と呼ばれる。従来の催眠(古典催眠)とは大きく異なるため、エリクソンのそれは現代催眠、エリクソン催眠と呼んで区別するのが一般的である。
催眠(≠あやしげな魔術)
現代の日本国内(だけじゃないかもしれんが)では、催眠というと
…怪しい、胡散臭いイメージを持たれているのは間違いないだろう。精神科医ですら、催眠の効果を疑っている人が少なくないと思われる。しかし暗示をかけ意識を変容させるという技法自体は古くから存在していたものであり、それを医療に活かしていた時代があったのは誇張でも何でもなく事実だ。
フランツ・アントン・メスメル(1734年~1815年)(Wikipedia)
ドイツ人の医師。動物磁気と呼ばれるものの提唱者。
1774年、メスメルはある女性患者に鉄を含む調合剤を飲ませることによって、患者の体内に「人工的な干満」を生じさせ、それから、患者の体のあちこちに磁石を付けた。患者は体中に流れる不思議な液体の流れを感じたと言い、数時間、病状から解放された。メスメルは患者を治癒させたのは動物磁気だと感じ、その研究を続けた。メスメルの概念と実践の発展が、1842年のジェイムズ・ブレイドによる催眠術の開発をもたらした。
ジェイムズ・ブレイド(1795年~1860年)(Wikipedia)
イギリス、スコットランドの外科医であり催眠の研究者。催眠や催眠療法についての極めて重要な革新をもたらした。1841年に見聞したメスメリズム=動物磁気の現象を「磁気とか関係無くね?暗示だろコレ」と見抜き、独自に研究を行い、実験によって証明した。これをヒプノティズム=催眠と命名した。
それまでオカルト的に思われていたものを「千里眼とか心を読むとか、そんな超常的なもんじゃないってばよ」と、科学的な現象として扱うように提唱した意義は大きい。
トランス(trance)(Wikipedia)
通常とは異なった意識状態。催眠においては”表層的意識が消失して心の内部の自律的な思考や感情が現れる”状態。脳波ではアルファ波〜シータ波が優勢になる。
催眠療法は、患者さんをトランス状態に導くことで症状の改善をはかるのだ。
で、本の内容紹介。
入門書と言いつつ、ある程度催眠について知識がある医師、心理師向けの内容です。「催眠とは~」「その歴史は~」「トランスとは~」といった基本的な解説は無い。「どうやってトランスに導くか?」を主題としたもの。
催眠は誰にでも効くわけじゃない。「俺はぜってー催眠にかからないもんね!」と拒否する気満々の人だったら無理に決まってる。
エリクソン先生は、あの手この手で患者さんをトランスに導くことが出来たので、有名になったのだ。
さてこの本、マニュアルとか手順…は、あるようで無いような。
(-ω-)「実際にやってみるから皆見ててね~」
と、エリクソン先生がワークショップで披露した実例、その時の会話、解説を日本語に訳したものです。
既に催眠療法を学んでいる人にとっては
(◦o◦)「おお、なるほど!」
という発見がテンコ盛りの、貴重な資料本と言えるでしょう。
…が、そもそも催眠自体を全然知らない人が読んだら
(・ω・)「????」
状態になってしまうであろう。読む場合、そのあたり覚悟しておきましょう。
カウンセリング全般に通じるポイント
催眠の本というより、エリクソン先生が催眠に導入する「あの手この手」の部分が、とても興味深い。
読んでみると、現代の主流である支持的精神療法に通じるものが結構多い。
・五感を活用する
患者さんの話す言葉だけでなく、患者さんの息遣い、肩の動き、視線など、あらゆる仕草がヒントである、という考え方。
・患者さんに合わせる
(-ω-)「それじゃ目を閉じてリラックスして~」
(`Д´)「俺は絶対、目を閉じないからね!」
(-ω-)「うん、じゃ目を開けたままでも良いよ~」
(-ω-)「椅子に座って、これからお話を~」
(`Д´)「座りたくない!あと俺は何も話さないからね!」
(-ω-)「良いですよ~、じゃ歩いてみましょっか」
…という感じ。まず治療者自身が患者さんの感覚・思考を尊重し、患者さんにとって一番安心できるところからアプローチし、徐々にトランスへと誘導していく。このあたり、実に上手い。(真似できる気がしないが。)
やさしい。
本の内容が「ワークショップの内容を文におこしたもの」なので、
(・_・;)「エリクソン先生、こういう時どうすれば良いんですか?」
(-ω-)「良い質問ですね、それは~」
という、研修生とのやり取りのシーンも多く出てきます。こうした会話の様子から、エリクソン先生の優しそうな性格が伝わってきます。やっぱ精神療法家ってのは、観察眼に優れた、褒め上手、良いとこ探しの達人。「その人に合ったアドバイス」が出来る人なんだなぁ、ってのが良くわかります。
まとめ(私見)
「催眠が本当に科学的な方法なら、なんで現代では廃れているのか?」という点について考察。
まず廃れたわけではない。現在も催眠療法の学会は存在しています。勿論、マイナーである点は否めないが、理由としてはおそらく2つ。「怪しげなイメージが広まってしまった(テレビ番組とかの影響)」「薬物療法が主流になった」からだと思われる。特に後者の影響は大きく、「お薬出しときますねー」なら5分で済むところを、「お薬を使わず、じっくり時間をかけてカウンセリングします!」と頑張る精神科医は、現代では残念ながら少数派。そんな時間があるなら薬物療法についてしっかり勉強した方が、確実なのだから。
けれど若手の精神科医の皆さんには、「精神科のお薬が存在しなかった」時代の治療技法を是非よく勉強して欲しい。治療の歴史を知ることで現代の治療技術をより深く理解できるし、普段の面接技法スキルの向上にもきっと役立つことでしょう。
以上。