医局日記

【精神医学】~廃れた昔の治療法~


金原出版 「現代臨床精神医学」第12版
ISBN:978-4-307-15067-5
P.509 かつて実施されていた治療法 より

現在ではまったく用いられていない、昔の治療法。歴史として知っておこう。
精神科の歴史においては、酷い時代があったのです。



インスリン・ショック療法(Wikipedia)

1933年に提唱。統合失調症に対する治療法として用いられていた。インスリンを注射することで人為的に低血糖ショックを引き起こす。治療効果は乏しく、危険性が高い。1960年以降は行われなくなった。



睡眠持続療法(コトバンク)

1920年代に提唱。睡眠薬を用いて、日中も含めてずーーーっと眠らせる治療法。統合失調症、うつ病に効果があるのでは、として盛んに用いられたが、1960年以降は行われなくなった。



発熱療法

進行麻痺に対する治療法。ワザとマラリアに感染させる。そして発熱する。その後、キニーネを用いてマラリアを治療する。画期的な治療法として、提唱者であるユリウス・ワーグナー=ヤウレック(Wikipedia)は、何と1927年度ノーベル生理学医学賞を受賞した。その後、抗生物質の出現により、発熱療法は行われなくなった。



ロボトミー手術


2019年10月25日 演題「教養としてのロボトミーQ&A」

ロボトミーは精神病の治療法の1つで、狭義では前頭葉白質切截術である。広義的には精神外科手術全般を指す。人類最悪の手術、呪われた手術と言われている。脳の構成をする大きな単位である「葉(Lobe)」を一回に切除することを意味するLobectomy(葉切除)がロボトミーといわれるようになった。

前頭葉を全部切断すると二匹のチンパンジーはおとなしくなり、リラックスして落ち着きを取り戻した。この結果を1935年ロンドンで開かれた第二回国際神経学会で発表した。ロンドンの会議の4ヶ月後にモニスは初めて人にその手術を行った。

…詳細を知りたい方は上記URLを参照。(人によってはショックを受ける内容・写真が含まれていますので要注意)


1960年代以降、廃れた理由

教科書には書いてありませんでしたが、たぶん理由は「抗精神病薬」が普及したため。

Twitter 精神科医ぷしこノート 2014年5月11日

初めて登場した抗精神病薬であるクロルプロマジン、少し後に登場したハロペリドール。2つとも、現在も精神科においても処方されることがあるお薬です。新しい薬に比べると副作用が出やすいものの効き目は強く、「精神疾患をお薬で治せるようになった」という歴史的な意味は大きい。


まとめ

私も初めて知ったときは「なんて非人道的な!」と感じましたが、よく考えると患者さんの人格や感情を変えてしまい得る、という精神科治療そのものが恐ろしいのだと言える。どこまでが本来の人格であり、何をもって症状とみなして治療するか。精神科においては、常に倫理的な視点、判断が求められます。いま流行している治療だって、数十年後には批判されるのかもしれない。

しっかり最新の知見を学びつつ、時には「もっと良い治療法は無いのだろうか」という視点で振り返っていきましょう。


以上。