【精神医学】~摂食障害~
金原出版 現代臨床精神医学
ISBN 978-4-307-15067-5
神経性無食欲症
食事を摂ろうとせず、意図的に痩せ細っていく病気。若い女性に多いため、婦人科領域でも出会う疾患です。
「痩せたい、太りたくない」という願望が病的なレベルになっており、ガリガリに痩せても「まだ太ってる、もっと痩せたい、こっちの方が調子が良い」と言うなど、ボディイメージの歪み、価値観の倒錯、を示す。食べないだけでなく、自ら嘔吐、下剤・利尿剤を乱用、過度な運動をしたりする。
BMI:体重(kg)/身長(m)の二乗 が17.5以下、標準体重の85%以下
例として、身長160cmの人であれば、体重45kg未満だと診断基準を満たすことになります。
痩せすぎる…と、命の危険が生じます。低栄養状態により内分泌に異常をきたし、女性であれば月経が止まってしまうことも。脳波の異常、脳CT、MRIで脳の委縮が見られる、との報告もあります。(病気が治れば元に戻りますが。)
神経性大食症
ストレスを解消しようとするため、抗しがたい食欲により、むちゃ食いを繰り返す。体重を維持しようとするために自ら嘔吐する、下剤・利尿剤を乱用する、という点は無食欲症と同じ。無食欲症からこちらに移行するパターンもある。
嘔吐を繰り返した結果、電解質異常を生じ、テタニー、てんかん発作、不整脈などの合併症を引き起こすことがある。
治療、予後
診断を確定すること、心と体がどのような状態なのか判断することがまず第一歩になります。
治療法は基本的な心理教育や栄養療法の他、心理療法と薬物療法が中心になります。
心理教育では病気に対する正しい知識を身につけ、健康的な食生活に改善するための助言などをします。認知行動療法や家族療法などの専門的な治療が行なわれることもあります。摂食障害に対する特効薬はありませんが、体や心の症状に対して薬を使用することがあります。(抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬)
残念ながら一部に長期化する方や、亡くなる方もいるのは事実です。日本でのある報告 では、4~11年の追跡期間で摂食障害全体として、回復が53%、部分回復16%、不良24%、死亡7%と報告されています。
摂食障害
より詳しく知りたい方はこちら。臨床像についての解説、治療の難しさ、などが書かれております。
この様な治療の難しさを加速させるのが、併存症の多さです。精神科を受診する大多数が、抑うつや不安、不登校、ひきこもり、自傷行為、自殺未遂を繰り返すことが多く、予後はこれらの併存する病理により大きく左右されます。さらに、強迫性、回避性や、演技性、境界性パーソナリティ障害といった両極端なパーソナリティ障害を併存することが多く、さらに臨床像を複雑なものにしています。
まとめ、私見
大学病院においては、瘦せ過ぎて命の危険が差し迫った患者さんを対応することも少なくありません。しかしそうした重症の患者さんほど治療が難しい。食べなければ良くならないのに、頑なに食事を拒否してしまう。入院中であっても人目を盗んでトイレに駆け込み嘔吐しようとしてしまうため、目が離せない。治療においては心理教育が最も重要ですが、重症の患者さんほど「まだ痩せたい、吐きたい」と病気の自覚が無いことが多いため、信頼関係を結び、話を聞いてもらえる…までにも相当な時間を要します。
「体重が減っていくの気持ち良い!毎日、体重計に乗るのが楽しい!」という人は要注意。特に「食べ過ぎたら後で吐けば良いや」「そうだ下剤を使おう」まで来ると、既に治療が必要な段階と思われます。そうなる前の早めの治療が大事ですので、家族や知人から「ちょっと変じゃない?」と言われたアナタ、ぜひ精神科を受診ください。そのままで大丈夫かどうか、治療が必要かどうか、判断してもらいましょう。
以上。