【雑誌紹介】~稀な精神症状まとめ~
星和書店 第34巻増刊号:知っておきたい稀な精神症候・症候群―症例から学ぶ― 2019年10月
「精神症状には間違いないんだろうけど…なんだこれ??」という感じの症状、症候名についての特集号。
精神疾患だけでなく、神経疾患に併発する症状なども多く書かれています。
精神科の病院、クリニックにおいては一冊、準備しておくことを推奨したい。
とりあえず量が量なので詳しい解説はパス。ざっくり、一部を紹介。
「精神症状って、色々あるんだなぁ」と、学生さんが興味を持ってくれたら幸い。
イマジナリーコンパニオン
通常学童期にみられる空想上の仲間。調査によると、結構「居る」人は多いが、他者に話すことは少なく、11歳頃には自然消失する。健康な人でも経験することは珍しくない現象。ただ、20歳台になっても続いている、多重人格にまで発展する、などの場合は治療が必要かも。
ウイリアムズ症候群
(英語版Wikiより画像)
染色体の一部欠損によって生じる病気。特徴的な妖精様願望、心血管異常、精神発達の遅れ、視覚認知障害などを呈する。精神症状としては「過度な社交性」が特徴的で、多弁・陽気で見知らぬ人にも気後れなく近づいていく。
オセロ症候群
1月11日の日記で解説したので、そちらで。
過剰欠伸
抗うつ薬(SSRI、SNRIなど。9月14日の日記参照)の副作用として生じることがある。ただの「あくび」と思って深刻に捉えられにくいかもしれないが、生活に支障をきたすケースもある。特に接客業の人にとっては大変だ。
金縛り
「反復性孤発性睡眠麻痺」という一応の病名があるらしい。脳波検査で「覚醒を思わせる大量のα波」「筋緊張消失」が認められたとのこと。まだ研究途上ではあるけれど、少なくとも心霊現象ではなく脳神経系の症状ですので、遠慮なく精神科医にご相談ください。
口腔内セネストパチー
セネストパチーとは体感異常、と呼ばれる症状。特に口腔内の感覚異常、というかたちで受診に至るケースが多いようだ。特徴として「強い不快感で、表現しにくい」。食事が辛くなるなど、生活上の苦痛が大きい。
考想可視
「考えが文字になって見える」という体験。すごい稀だし、だから何やねん、という感じだが…自我障害の程度を示す指標となる可能性もあるので、「知っておいて損は無いんじゃね?」と、筆者の結語。
コタール症候群
否定妄想を中心とする一連の症状。「自分の内臓が無くなった」「魂が無くなった」「自分は既に死んでいる」などの妄想を話す。統合失調症や頭部外傷などでも生じるが、うつ病として診断されているケースが多いようだ。
サヴァン症候群
知的障害があるにも関わらず、際立ったスキルの高さを示す。日付を聞いただけで曜日を一瞬で言い当てる、など。だいたいASD(自閉スペクトラム症)と診断されるケースが多い。
シャルル・ボネ症候群
複雑な人物・情景など明瞭で内容豊かな幻視があるが、現実ではないという洞察も保たれている状態。高齢者、視覚障害を伴うケースが多いらしい。
ストックホルム症候群
誘拐、監禁の被害者が、加害者に良い感情を抱いてしまう現象。被害者がPTSDなど発症しなければ精神科受診に至らないこともあり、治療対象となることは稀。「生きるも死ぬも一緒、という一体感」が生み出す現象?らしいが、よくわかっていない。
体外離脱体験
自分が身体から離れて存在し、外から自分や世界を眺める体験。これも心霊現象…ではなく神経・精神医学的な症状です。
ドリトル現象
(Amazonより画像)
ドリトル先生シリーズ、に由来した現象。「動物、主に鳥からの幻声」が特徴的。
不思議の国のアリス症候群
(Wikipediaより画像)
勿論、あの本に由来してのネーミング。自己イメージの変容、視空間知覚の変容を主症状とし、時間感覚の異常や離人症も伴いうる。「学校の廊下が遠く長く見えた」「テレビがミニチュアになった」など。ほとんどの場合は一過性で予後良好。
幻の同居人
(水木しげるの妖怪ワールドより画像)
イマジナリーコンパニオンは子供に多いが、こちらは高齢者に多い「招かれざる誰かが家に居る」という訴え。座敷童の元ネタ説もある。妄想性障害や、認知症など、原疾患の治療が第一。環境調整だけでも改善することが期待できるとのこと。
まとめ
いかん紹介してたらキリが無い。何しろ今回紹介した雑誌では合計118もの症候名が紹介されている。
全て具体的な症例とともに紹介されているので読みやすい、実際に読み始めると止まらなくなりました。
真面目な話として、症候・症候群というのは、研究が進むことで「適切な診断・分類につながる」「適切な治療方針がわかる」ことが期待されるもの。しかし稀な症候の場合は研究が進まず、「知る人ぞ知る」「だからどうすりゃ良いのさ」扱いになりがち。
大切なのは、専門家として「知っておくこと」「見つけたら報告すること」であります。研究者が頑張れば良いという話ではなく、臨床医こそ知っておくべき知識。正しい症状や症候の理解が、医学を発展させるのです。
以上。