医局日記

【雑誌紹介】~多文化共生社会における精神療法~


金剛出版 精神療法 第46巻2号 多文化共生社会における精神療法 2020/04/05

同じ日本人同士ですら、たくさん言葉を交わしても分かり合えないことだってある。ましてや言葉も文化も全く違う者同士だったら、コミュニケーションは更に難しくなるだろう。だが21世紀の国際社会、国外から来られた方が精神科治療を求めて来院されるケース、増えてくる。その時、あなたはどう対応するか。


難民の心理療法:鵜川 晃

イスラム圏の男性はトラウマを持つことを恥と考えている。そのために診察に協力的でなく、防衛が大きくなる。トラウマは正常の現象であると合意されるまで、PTSDの表現は避け、相手の状態を受容的に受け止め治療を進めることが大切。

「呪いを受けた」などの表現も、妄想と考える前に、話の文脈を確かめその国の文化的風土などをしっかり調べる必要がある。特に統合失調症の場合、どの国においても「狂気」ととらえられることが多く、診断を与える際には注意を要する。


今日の「パリ症候群」:太田博昭

誰もが体験しうる良性カルチュアショックと異なり、放置すれば悪化の一途をたどる悪性カルチュアショックが原因。日本的な以心伝心型と欧米流の議論説得型との相違が根本病因となって葛藤を惹起する病理現象。日本人は「お客様は神様」という考え方があるから、より邪険に扱われているように感じがち。それでも海外への憧れが揺るがないのは、外国文化を取り入れ自国を発展させてきた歴史が、我々のDNAに組み込まれているからかも。裕福な家庭からやってきた学生が多かったバブル期と異なり、最近では現地で必死にバイトしながら生活する「苦学生」が増えているため、更に深刻なメンタルトラブルに陥るケースが。


ニュージーランドにおける移民と元難民に対する心理療法:国重浩一

ナラティヴ・セラピーにおいて大切な姿勢は、人々が有しているローカルな知識を大切にすること。相手の文化、風習、常識を理解しながら、相手のローカルな知識によって心理療法を展開する必要がある。マジョリティの立場からではなく、自らがマイノリティの立場に身を置くことを想像し、共感し、ともに考えていく。


浦島太郎の気付き:堀越 勝

言葉が通じないときの4つのアプローチ
①相手の言語をこちらが話す
②こちらの言語を相手に教える
③両社の分かる言語以外の方法
④他の専門家に任せる

③は例えば、ジェスチャーや絵や図での表現。アプリやネットも活用しよう。漫画も有効かも。


まとめ

相手の立場になって共感する…というのは、口で言うのは簡単だが実際にやろうとすると難しい。ついつい、自分の育った文化の常識、知識に当てはめて捉えてしまい、そのつもりがなくても相手を傷つけてしまうかも。まずは相手の文化、風習、常識を知ること!寄り添い、共感するためには、こちらもしっかり勉強していくことが大前提です。

以上。