医局日記

【論文紹介】~先端技術と精神科診断~


最新医学社 最新醫學 74巻 3号 2019年3月 特集 : 人工知能 (AI) の医療分野への応用と解決すべき問題点
(ちなみに同誌は2019 年 6 月をもって廃刊。インターネット販売も終了しました。)

機械学習など先端技術を活用した精神神経疾患の診断・重症度評価
澤田恭助*, 田澤雄基*, 堀込俊郎*, 高宮彰紘*, 岸本泰士郎**
*慶應義塾大学医学部 精神神経科学教室, **専任講師


精神科は「検査」で診断を決めることが出来ない。診断に用いられるDSMなどのマニュアルも、患者さんや他者からの主観的な情報に基づく病歴、症候と、日常生活への支障の有無によって疾患が定義されている。客観的な手法に乏しい…それが精神医学の大きな問題点であった。そこで、機械学習とか最新の技術を使って何とか精神疾患の診断・重症度評価が出来ないかな?という内容。

①臨床症状の定量化

従来は定量化できなかった、患者さんの話、表情、体動、日常生活活動量。特にうつ病においては、発話や表情、体動に変化が生じることが昔から知られていました。研究にあたっては、何を定量化するか、いかに定量化できるか、がカギとなります。

・音声

会話の中でどのくらい声を発している時間があるか、声を出してない時間があるか、声の大きさ、ピッチ。こうした音声解析を研究した論文によると、うつ病患者では健常群と比較して発言の休止時間が長く、声のピッチの変動が減少していたとのこと。うつ症状の重症度とも相関関係があった。メル周波数ケプストラム係数(MFCC)が、うつ病患者と健常者で異なるとの仮説もある。もしかしたら将来、しゃべり声を機械で解析するだけでうつ病の診断が出来るようになるかも??

・表情、体動

表情だけでなく肩や腕の動きの時空間特徴を、機械学習により解析。結果、うつ病患者と健常者を80~90%程度の精度で見分けることが出来た、との研究報告が複数。こちらも、重症度まで分析できる可能性が示唆されている。

・日常生活活動

ウェアラブルデバイスを用いて、24時間の生活を分析。睡眠、心拍数、呼吸数、位置情報など。分かりやすいのは睡眠時間ですね。うつ病だと睡眠が浅く短くなる傾向。デバイスは日々進歩してますので、今後こうした便利な機械を使った研究が増えてくるでしょう。

②血液検査、画像検査

これまで単一のバイオマーカー、例えば「血液検査で〇〇の数値が高いので、あなたは〇〇病です!」「画像検査でココに影があるので、あなたは〇〇病です!」みたいなものが、精神疾患では見つかっていない。けど最新の技術を使えば、大量のデータ、複合的な事象を分析できる。こうした技術を活用した結果、バイオマーカーと期待される血液中の代謝物(3-ヒドロキシ酪酸、べたインなど)、MRI画像データ、などを用いて、うつ病患者と健常者を高い精度(感度93.3%、特異度87.5%)で見分けることが出来たとの研究報告もある。双極性障害との鑑別の研究もあり、こちらは精度69%。自閉症スペクトラム症との鑑別研究では85%の精度。今後に期待です。


まとめ

これまで精神医学は客観的なデータを集めることが難しく、診断や重症度の評価も患者さん個人個人の差が大きく、研究が難しい医学分野でした。しかし技術の進歩により、声や表情なども客観的なデータとして扱えるようになり、複雑な要素からカギとなる要素を見抜く解析、などが可能となってきました。今後の発展次第では、「血液検査、画像検査で診断」「録画した映像で診断」「スマートウォッチを付けて歩くだけで診断」という時代が来るかも。そうなると精神科治療の受け口、早期発見早期治療に大いに役立つことになるでしょう。


また後日、AI、機械学習、について解説したいと思います。私も勉強中。
以上。