医局日記

【雑誌紹介】~新しめの精神科のお薬についての論文~



新薬と臨牀 第69巻10号

精神科の医学雑誌というわけではないのですが、割と新しめの精神科薬についての論文が2つあったので紹介。
8月31日の日記で「お薬にはいろんな剤形がある」と紹介しましたが、その中のふたつ。ちょっと変わった剤形のやつ。



味覚センサを用いたアセナピンマレイン酸塩の味覚に与える口腔ケア製品中成分の影響評価
Meiji Seika ファルマ㈱ 兼重順一


Meiji Seikaファルマ株式会社 抗精神病剤「シクレスト®舌下錠」新発売のお知らせ 2016年

精神科で唯一の「舌下錠」。お茶を用意しなくても、飲み込まなくても、口に入れるだけで効くというメリットがある。
…が、内服いただいている患者さんからは「すっげぇ苦い!」という感想をよくいただいております。
真面目な話、あまりに嫌な味の薬だと飲み続けることが困難となり、治療中断となってしまうリスクがある。
この薬を飲んだときの「味覚」についての研究論文です。

味覚センサーを用いて実験。歯磨き粉とかで良く使われる「D-ソルビトール」という成分を用いると、シクレスト内服後の「苦味」を軽減する効果があることが分かった、との研究結果でした。他にもキシリトール、グリセリン、サッカリン、プロピレングリコール、クエン酸、などの成分も試し、これら全て苦みの軽減効果はあったけど、D-ソルビトールの効果が頭一つ抜けて優れてました。

というわけでシクレストを内服する方、歯磨き粉や口腔ケア用品をお買い求めの際は「D-ソルビトール」が入っている製品をオススメします!(…と明言してはいないが、そんな明治製菓の思惑が感じられる。)



ブロナンセリンテープによる統合失調症治療の実際
藤田医科大学 藤田明里


くすりのしおり 商品名:ロナセンテープ20mg より

精神科のお薬では珍しい、貼付剤タイプ。2019年に発売開始。
「精神科のお薬を飲む」という行為自体、やっぱりイメージが良いとは言えない。恐くなって飲むのを止めてしまい、結果として病状が悪化してしまう…そんなケースを少しでも防ぎたい、という期待のもとで生まれた(と思われる)お薬。
しかし貼り薬という特性上、皮膚障害(いわゆる”肌荒れ”)を引き起こすリスクはある。その辺どうなんだろ?という点を調査した論文です。

調査の結果、内服薬と比較して効果が弱いわけでもなく(むしろ急性期でも有効)、内服薬よりも中断率は低い、ということが判明。
皮膚障害の発生は確かに無視できず、貼ったところの紅斑、かゆみの発症率は約10%。しかし皮膚障害を理由として中断した例は殆ど無かった。使用期間が長くなればなるほど、皮膚障害の発症率は減少したとのこと。約半数は自然に皮膚が治り、残り半数も塗り薬(ステロイド剤、抗ヒスタミン剤)を使用することで改善したとのこと。

というわけで肌荒れを恐れ過ぎなくて良いみたい。場合によっては皮膚科の先生とも協力していきましょう。軟膏薬も是非ご一緒にお買い求めください!(…とまでは書かれてなかったが、そんな住友製薬の思惑を感じさせる。)


まとめ

※COI開示
若干、お薬の宣伝臭くなってしまった感もありますが、あくまで医学論文の紹介が主旨であり忖度とかではありません。念のため。

年々、新しいお薬が販売されています。専門家である我ら精神科医、皆様に正しい情報提供ができるよう、日々最新の知識を勉強していく所存であります。


以上。