【精神科医に告ぐ】~患者さんを傷つけていませんか?~
精神科治療学 第34巻08号 2019年8月
《今月の特集:精神科治療でこんなことをしていませんか?─医療慣習や“御法度”を再考─》
この雑誌、どの論文も凄く興味深い内容だった。複数回に分けて紹介していきたい。
で、今回取り上げるのは下記論文。
当事者・家族は,精神科医のどんな態度や言葉に傷ついているのでしょうか?
夏苅郁子 やきつべの径診療所@静岡県
Wikipediaより
夏苅郁子
北海道生まれ。父親の転勤で、幼少期から中学時代まで引っ越しが多かった。10歳のとき、母が統合失調症にかかる。家庭を顧みず収入を家に入れぬ父親とは疎遠であり、病んだ母親と二人の孤立した過酷な少女時代を送る。浜松医科大学医学部卒業後、同精神科助手、共立菊川病院、神経科浜松病院を経て、2000年やきつべの径診療所(静岡県焼津市)を開業。現在は焼津市在住で、精神科医である夫とともに診療所を営む傍ら、その母の介護経験を基とした統合失調症の理解・啓蒙のための運動に取り組み、2012年に「心病む母が遺してくれたもの~精神科医の回復への道のり」を上梓した。
患者さんから「好ましくない」と評価された項目…
・早く診療を切り上げようとする
・待ち時間が長い
・症状を言うたびに薬を増やされる
・急変時、対応策を教えてくれない
・記録に熱心なあまり顔を見てくれない
・暴れたら警察へ、と簡単に言われる
「医師に直してほしい言葉・態度」の例として…
・説明を求めるとキレる
・自分が一番偉いと思っている
・真面目過ぎるて、医師の方がうつになってしまった
・すべて患者側に失敗の原因があるように説明される
・話を遮られてしまう
・日によって気分にムラがあり患者にも伝わるレベル
・問題点に「それは難しいねえ」と答えるのみ
・早口
・ずっと涙をこらえているのに、全く気付いてもらえていない
・「一生治りません」と言われた
・今生きることで精一杯なのに「将来どうしたいか」と問わないで欲しい
逆に、「医師に言われて嬉しかったこと」の例として…
・「よく乗り越えましたね!」
・「あなたは心を開いて話をしてくれる、いい患者さんです」
・「一緒に頑張れるよう、良くなるイメージを持ちましょう」
まとめ、提言
医師が何気なく使っている言い回しや態度が、当事者・家族に悲観的な考え方をさせてしまうことがある。「生活の障害」「脳の異常」という言葉ではなく「生活の困難」「脳の変化」という言葉で伝える、などの配慮も大事です。「精神科医は時間的・人数的制約がありつつも、可能な限り専門性と思いやりのある診療をする」ことが求められています。小さな気遣い、声掛けの積み重ね、工夫を、怠ることのないよう心がけましょう。
なお筆者によると、最良の精神科医のイメージとしては、「薬の処方が適切で、人柄が良く、コミュニケーションが上手」と思われますが、では最悪の精神科医は?と家族会で問うたところ、その逆…ではなく、「薬の処方がずさんで、人柄が良く、コミュニケーションが上手」との答えがあったそうです。至極当たり前ですが、知識不足で診療にあたると、当事者・家族を最大に傷つけることとなります。
医者には、生涯にわたって研鑽を積む責任があるのです。
以上。