医局日記

【精神療法】~音楽療法~


2020年(Vol.39)12月号 特集 癒しと精神科医療

音楽体験の治療的側面と精神科の音楽療法 馬場 存(駿河台大学心理学部) より

音楽療法の歴史

音楽が心を動かした!…ってエピソードを遡り過ぎると旧約聖書時代まで行ってしまうので省略。
精神科治療としての音楽の役割が注目され始めたのは、フランス革命期、ピネルさんの時代とのこと。

フィリップ・ピネル(Wikipedia)

Philippe Pinel:1745-1826。フランスの医学者、精神科医。心理学を深く研究し、ジャン=ジャック・ルソーや、当時の英国の心理学的精神科の臨床実績の影響を受けた。ピネルの医療は、「心的療法」(traitement moral)に代表される純粋に人道的な心理学的臨床を重んじる精神理学医療であった。
(・ω・)閉鎖病棟で鎖でつながれていた患者さん達を開放したことで有名です。専門医試験にも出るぞ。

この頃の精神科病院において、音楽を聴いた患者さんが「ずっと動かなかったのに起き上がり、元の状態に回復した」「不穏で騒いでいた患者さんが音楽に集中し、最終的に理性的な状態に戻った」などのエピソードが報告されている。

そして現代…

1950年、全米音楽療法協会が誕生。日本ではバイオミュージック学会(1986)、臨床音楽療法協会(1994)が連立し、全日本音楽療法連盟(1995)音楽療法士の認定が開始。2001年に日本音楽療法学会が結成され、現在に至っています。

どうして音楽で精神症状が治療できるのか?…についてはよくわかっていない。副交感神経が活発になるとか、コルチゾールが低下し免疫が活発になる、とか仮説はあるみたいだけど。でも様々な研究の結果、統合失調症やうつ病などに対して効果がある、ということは概ね証明されています。

音楽体験

当たり前だけど、興味も無いのに無理やり音楽聴かされても治療効果はありません。「音楽に我を忘れてのめりこむ」のが大事。心理学的な表現として「音楽と自分との区別が無くなり、意識が意識されない」という状態、それが音楽体験。歌ったり演奏したり、は「創造」にあたり、例えば芸術家が作品作りに没頭するような「創造的退行」の状態になる。
この没頭が鍵であります。没頭により自我境界が良い意味で曖昧になり、そこから現実に戻ったときに心が再統合される。演奏会に行って音楽を聴き、感動し、世界が以前と違って見え「前向きに生きよう」という気持ちになる。

別に精神療法に限った話でなく、誰にとっても音楽は素敵なものです。音楽を聴いて感動する、演奏に夢中になる、という体験は、きっと人生を豊かにしてくれます。そしてこれは人種・言葉を超えて通用する、人類の貴重な共有物なのであります。


※補足 学会の公式サイトをみてみよう!


日本音楽療法学会 公式サイト

音楽療法の紹介(pdf資料あり)

音楽には、人の生理的、心理的、社会的、認知的な状態に作用する力があります。音楽療法では、活動における音楽の持つ力と人とのかかわりを用いて、クライエントを多面的に支援していきます。言語を用いた治療法が難しいクライエントに対しても有効に活用できる方法です。

病院に限らず、高齢者施設、学校、在宅などでも可能です。

子供の発達支援、認知症の症状緩和、痛みの緩和、病気・事故のリハビリ、など様々な場面に。

音楽療法には、能動的な方法と、受動的な方法があります。また、グループでセッションをする場合と、個別で行う場合があります。

音楽療法士とは

現在、民間の資格です。医療、福祉、教育などの専門職であると同時に、「音楽の専門家」です。したがって、高度な音楽の知識や技術が必要です。
日本音楽療法学会においては、認定校での3年以上の教育が課せられます。社会人の場合、一定の条件を満たせば、学会の認定講座を受講後、筆記、面接試験をパスすることで資格を取得できます。

(・ω・)上記サイト内で、音楽療法士の紹介マンガも読めます。


まとめ

音楽療法の定義、役割などについて紹介いたしました。歴史ある精神療法の一種であり、専門の資格もあります。音楽は言語を超えて心を動かす力を持っている。たくさん聴こう、たくさん演奏してみよう。


おまけ ベートーベンについて

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Wikipedia)1770-1827

詳細な解説はWikipedia参照。音楽に詳しくない人にとっては「名前だけ知ってる」程度かもしれないが、音楽の歴史を語る上では非常に偉大な人物なのである。モーツァルトやバッハなど「音楽の天才」、彼らが生み出した様々な名曲…がある中でも、ベートーベンは別格。「音楽の神様」と呼ばれる。

ベートーヴェン以前の音楽家は、宮廷や有力貴族に仕え、作品は公式・私的行事における機会音楽として作曲されたものがほとんどであった。ベートーヴェンはそうしたパトロンとの主従関係(およびそのための音楽)を拒否し、大衆に向けた作品を発表する音楽家の嚆矢となった。音楽家=芸術家であると公言した彼の態度表明、また一作一作が芸術作品として意味を持つ創作であったことは、音楽の歴史において重要な分岐点であり革命的とも言える出来事であった。

…ベートーベンが「音楽は貴族だけのものじゃない、全ての人々のものだ!」と音楽に対する価値観を大きく変えてくれた。現代、我々にとっては、音楽は誰にでも楽しめる身近な存在となっている。ベートーベンのお陰なのです。

ちなみに個性的エピソードも多い。
・服装に無頓着で、浮浪者に間違えられて通報された
・その割には綺麗好き、というか潔癖症だった
・堂々と自由主義者を名乗ってたので危険人物扱いされた
・気分の波が激しく、親切で無邪気なこともあれば冷酷で暴力的になることもあった
・コーヒーは必ず自ら豆を60粒数えて淹れた
など。


(・ω・)…芸術家って、凄い。(いろんな意味で)

以上。