医局日記

【精神医学】~精神保健指定医~

今回の内容としては、精神科に興味がある学生さん~研修医向け。文字多めで恐縮。
まず「専門医」との違いについて。


精神科専門医


専門医を目指す方(学会専門医制度)

日本精神神経学会による試験を受け、合格すると認定されるものです。
精神科に限らずどの診療科でも様々な「〇〇学会」が存在します。「〇〇専門医」はそうした試験をパスしたお医者さんであり、十分な知識や経験を持っていることになります。ちなみに


日本専門医機構

が元締めとなっています。
診療科、所属医局によって多少違いはあれど、基本的に「専門医」を取得するのが若手医師の課題であり、独り立ちの証となるようです。


精神科の場合は「専門医」のほかにもう一つ、重要な資格があります。


精神保健指定医

厚生労働省 精神保健指定医

精神科医療の法的根拠である「精神保健福祉法」。精神保健指定医は、同法律によって定められた「国家資格」です。
精神疾患の治療のために患者さんを「強制的に入院」させ「行動を制限」するという、かなり強力な権限を持ちます。
国家資格であり、厚生労働省による審査をパスする必要があります。学会により与えられる専門医とは完全に別物です。

※なお精神科以外では、産婦人科領域における”母体保護法指定医”があります。精神科とは完全に別物です。


申請条件

精神保健福祉法(法)第18条

1.五年以上診断又は治療に従事した経験を有すること。
2.三年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること。
3.厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること。
4.厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修(申請前一年 以内に行われたものに限る。)の課程を修了していること。

について詳記。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第十八条第一項第三号の規定に基づき厚生労働大臣が定める精神障害及び程度(昭和63年厚生省告示第124号)(pdf形式)より

厚生労働大臣の定める精神障害
症状性を含む器質性精神障害
精神作用物質使用による精神及び行動の障害(依存症に係るものに限る。)
統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
気分(感情)障害
次の各号に掲げる精神障害のうちいずれか
・神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害
・生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群
・成人の人格及び行動の障害
・知的障害(精神遅滞)
・心理的発達の障害
・小児(児童)期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害

…以上、合計5つの疾患の症例を経験し、レポートを作成することになります。

※注意
一例以上は、措置入院者に係るものとする。
全て、申請者が申請前七年以内に従事したものとする。
一例以上は、申請者が申請前一年以内に従事したものとする。
二例以上は、申請者が申請をした日の一年前の日より前に従事したものとする。
一例以上は、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある者に係るものであることが望ましい。
一例以上は、申請者が、措置入院者又は医療保護入院者の退院後に、当該者に対して法第二十条の入院による治療を行ったものであることが望ましい。
一例以上は、申請者が、措置入院者又は医療保護入院者の退院後に、当該者に対して通院による治療を行ったものであることが望ましい。

【わかりやすく解説】
※不合格となる例を挙げると…
「統合失調症の症例…もう10年以上前だ。あの患者さん元気にしてるかな」→7年以上経っているため認められない
「全ての症例を経験しました。ので最近1年間は研究業してました」→最低1例は1年以内でないと認められない
「2年以上研究業してたので、この1年間で全て経験しました!」→最低2例は1年以上あけないと認められない
※不合格ではないが、審査が厳しくなる例
「全部の症例、高齢者ばかりになってしまった」→できれば18歳未満の症例を1例。
「措置入院の症例、結局退院させられなかった…」→できれば任意入院への切り替えを目指すのが望ましい。
「医療保護の症例、退院後は別の病院に紹介しました」→できれば自分が主治医となって外来も診てあげましょう。


まとめ

申請するためには「初期研修医2年間を終えた後、精神科病院で3年間勤め」た後、条件を満たした5つの疾患を経験し、研修を受ける必要があります。最短でも5年以上。…ただ、今年は新型コロナの影響か、試験日程の予定が未だ決まっていない模様です。大変だ。

2020年現在は、「精神科専門医」と「精神科指定医」は完全に別物なので、どちらか片方だけ取得している(両方は取得していない)精神科医師も少なくありません。どちらかと言えば国家資格としての権限を持つ「指定医」の方が、現時点では優先的に取得を求められる傾向にあるかも。しかし「権限はあるけど専門家としての認定を受けていない」だったり「専門家としての知識は豊富だけど権限が無い」というのも、なんだかちぐはぐな感じがありますので、今後は「両方取得している」ことが一人前の精神科医として必須条件となるのではないかな?と予想されます。

(・ω・)若手精神科医の皆さん、両方取得を目指し、勉強・経験あるのみです。がんばろう。


以上。