医局日記

【精神医学】~適応障害~

厚生労働省 みんなのメンタルヘルス 適応障害

適応障害とは

ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」と定義されています。ストレス因は、個人レベルから災害レベルまで様々です。個人のストレスに対する感じ方や耐性も大きな影響を及ぼします。

「発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1カ月以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」とされています。ただしストレスが慢性的に存在する場合は症状も慢性に経過します。
もうひとつ重要な点は、ほかの病気が除外される必要があります。統合失調症、うつ病などの気分障害や不安障害などの診断基準を満たす場合はこちらの診断が優先されることになります。
ストレス因から離れると症状が改善することが多くみられます。

情緒面の症状…抑うつ気分、不安、怒り、焦りや緊張 など。
行動面の症状…行きすぎた飲酒や暴食、無断欠席、無謀な運転やけんか など。。

治療としては
①ストレス因の除去(=環境調整
②本人の適応力を高める(=心理教育
薬物療法(あくまで対処療法)
となります。


※鑑別疾患

「ほかの病気が除外される必要がある」と書かれている通り、適応障害と診断するためには他の精神疾患についても詳しく知っておかねばなりません。


統合失調症

感情表現が乏しくなったり、意欲が低下する陰性症状

陰性症状は、感情の平板化や意欲の減退、思考の低下などの症状です。多くは陽性症状に遅れて現れます。
<感情の鈍麻・平板化>喜怒哀楽の表現が乏しくなる
<意欲の減退>意欲や気力が低下する
<思考の低下>会話の量が減り、空虚な内容になる
<対人コミュニケーションの支障>人との関わりが減り、自閉的になる

(・ω・)統合失調症というと「幻覚、妄想」などの陽性症状が目立ちがちですが、こうした「陰性症状」も社会生活機能に重大な影響を及ぼすものです。あまりに目が死んでる感じだったら、こっちの病気も疑って問診を進めましょう。



うつ病

厚生労働省 みんなのメンタルヘルス うつ病
ひとつひとつの症状は誰もが感じるような気分ですが、それが一日中ほぼ絶え間なく感じられ、長い期間続くようであれば、もしかしたらうつ病のサインかもしれません。症状として「何をしても楽しくない、何にも興味がわかない」があります。

(・ω・)ストレスが無くなっても落ち込んだまま…なら、適応障害ではなく、うつ病の可能性が高いと思います。



不安障害

厚生労働省 みんなのメンタルヘルス パニック障害・不安障害

図のように、「パニック障害」は「不安障害」の下位分類のひとつです。米国精神医学会のDSMと、WHOのICDでは若干分類が異なりますが、概ね共通しています。

不安障害の主症状は不安です。不安とは漠然とした恐れの感情で、誰でも経験するものですが、はっきりした理由がないのに、あるいは理由があってもそれと不釣り合いに強く、または繰り返し起きたり、いつまでも続いたりするのが病的な不安です。不安のあらわれ方にはいろいろな形があり、それによって不安障害の下位分類がなされています。原因がトラウマ体験によるもの、体の病気や物質によるものなど、様々なものが含まれています。中でもパニック障害は、不安が典型的な形をとって現れている点で、不安障害を代表する疾患といえます。

不安障害はほかの精神障害の併存が多く、とくにうつ病(大うつ病や気分変調性障害)、アルコール・薬物依存、パーソナリティ障害などが加わると、症状が悪化し経過が長引くことが分かっています。

(・ω・)ICD-10では適応障害も不安障害も同一カテゴリのため、特に鑑別が難しい。時間が経ってから徐々に区別がついてくる場合も少なくないと思います。



PTSD(心的外傷後ストレス障害)

強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなって、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるものです。震災などの自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害などが原因になるといわれています。

症状として、「突然、つらい記憶がよみがえる」。事件や事故のことなどすっかり忘れたつもりでいても、ふとした時に、つらい体験の時に味わった感情がよみがえります。それは恐怖だけでなく、苦痛、怒り、哀しみ、無力感などいろいろな感情が混じった記憶です。数ヶ月たっても同じような症状が続いたり、悪化する傾向がみられたら、PTSDの可能性を考えて専門家の診断を受けてみてください。

(・ω・)慢性化する病気で、上記”フラッシュバック体験”が特徴的。こちらも時間が経ってから診断に至ることが多く、初診で適応障害と鑑別するのは難しいかも。



まとめ、補足

日経Gooday 30+ 医師が語る 自殺する人と、踏みとどまる人の違い 2018/3/14

帝京大学医学部の張賢徳先生によると、WHO(世界保健機関)が公表しているデータによれば、自殺者の実に約97%が、何らかの精神障害の診断がつく状態であった、とのこと。うつ病を含む気分障害、薬物やアルコール依存などの物質関連障害統合失調症パーソナリティー障害、の順に多く、これらが自殺に関連する4大精神疾患といわれています。


自殺予防の取組み より
第107回(2011)シンポジウム28 自殺対策と精神保健 張賢徳 精神医療と自殺対策(全文pdf公開あり)

…1つは横浜市立大学精神科の河西らの調査結果,もう 1つは岩手医科大学精神科の大塚らの調査結果で,いずれも救命センターに搬送された重傷自殺未遂者の精神科診断を調べたものである.何が重要かと言うと,重傷自殺未遂者の約 2割が適応障害であったということだ.つまり,軽症のうつ状態でも,致死的な自殺行動を起こすということである…


…適応障害は「他の精神疾患で説明がつくならそっち優先」と書かれていることもあり、軽症の疾患というイメージがあるかもしれません。が、張先生が指摘している通り、適応障害でも自殺に至るリスクはあります。診断においては鑑別、つまり精神疾患全般に詳しくなる必要がありますし、軽症に見えつつも決して大丈夫とは言えず、症状も治療もケースによって異なるため、意外と対応が難しい病気と言えそうです。こうした「はっきりしない部分が大きい」まま治療にあたるには、治療者のネガティブ・ケイパビリティ(Wikipedia)が試される。

(・ω・)精神科医ってのは、誰よりも粘り強い心の持ち主なのだ!

以上。