【雑誌紹介】~公認心理師と精神科医~
臨床精神医学第48巻第5号 臨床精神医学第48巻第5号 発行日:2019年05月28日
〈企画趣旨〉
2015年9月公認心理師法が成立し、2017年9月施行され、2018年9月(と12月)に第一回公認心理師試験が実施され、いよいよ2019年4月から約3万人の第一回国家試験合格者が「公認心理師」として活動することになった。現在の精神科医数より多い公認心理師は精神科臨床にも大きな影響を与えることが予想される。新しい意味での協働活動が期待されるのであるが、本特集では精神科領域だけでなく心理学領域の識者の意見を合わせた特集としたい。
※注
精神科の臨床に関連する内容に着目し、内容をピックアップしました。「公認心理師の制度」について扱った論文が主でしたので、特集の主旨とは若干ズレてしまったかもしれません。その点、ご容赦ください。
公認心理師制度の概要と課題 (東京成徳大学)石隈 利紀
精神療法は、主として医療機関において精神科医が行うサイコセラピー(psychotherapy)を指して用いられる言葉であるが、心理療法は、主として医療機関以外の臨床の場で心理師が行うサイコセラピーを指して用いられる言葉である。心理療法は心理領域の専門的援助であり、精神疾患に対する精神療法とは区別されるべきものとされたのである。
精神科医による精神療法
精神科医の職責は診断、治療計画、治療の施行とその評価、治療終結など、精神科治療の全領域に及ぶ。いわば総監督である。精神科医による精神療法は、その開始と終わりを明確に意識することなく行われることが多い。初診時から暗黙のうちに始まり、治療終結に至るまで続く。通常他の治療モダリティと一緒に行われ、それだけが突出して目立つことはないが、失われると全体のバランスが崩れるような支えである。そのようなものとなった理由として、精神科治療が「身体的基盤」に絶えず気を配りながら行われることが第一としてあげられる。精神科医は、患者の訴えが身体的に説明されるものか否かを常に考慮する、複眼視的態度を治療全般を通して維持していく。精神科医は、薬物療法による問題の当座の軽減をまず模索し、その有効性が低いとみると精神療法的アプローチの可能性を中心に考えることが多い。
精神療法の目標は症状と直結したものが多い。ほとんどの精神科患者は、意欲低下や不眠といった具体的な症状を訴えて来診する。
精神科医による精神療法のセッティングとして、面接の開始時刻も長さも決まっていないことがほとんどである。ある回では10分、別の回では15分など、その時々で異なる。1日に何十人もの患者を診なければならない臨床の現場では、これ以外の方法をとることはなかなか容易ではない。技法は、支持的なものが中心である。精神分析やユング心理学などの深層心理学的アプローチは、(時間の都合上)十分に取り入れるのは困難である。
心理師による心理療法
精神療法と同じく症状改善を目標とすることもあるが、それに留まらず、生き方をめぐる悩みについて深く考えることを目標とすることも少なくない。心理療法は開始と終結が明確に決まっていることが多い。1回30分あるいは45分というように時間の長さが決まっており、隔週や毎週というように頻度も決まっていることが多い。時間的余裕があるため、用いることのできる技法の幅が大きい。
心理師の養成・心理療法の訓練は、精神科医のそれよりもいっそう早朝から行われることが多い。一般にサイコセラピーの習得には個人スーパービジョンが有効である。日本では精神療法の個人スーパービジョンを受けたことのある精神科医は多くない。
※補足:スーパービジョンとは…
【介護福祉用語】スーパービジョンの意味とは?種類や方法を解説! 2018.10.06
スーパービジョン(supervision)とは、介護業界において対人援助職者(スーパーバイジー)が指導者(スーパーバイザー)から教育を受ける過程を指します。ったばかりですぐに質の高い介護サービスを提供するのは難しいのが現実です。利用者によって求めるサービスは異なりますし、トラブルへの対処法も、現場を知らないとわからないことが多いためです。そんなときに必要なのがスーパービジョン。スーパービジョンを通して、若手の職員が経験の豊富な職員から仕事のノウハウを教えてもらうことができます。
1 個人スーパービジョン
文字通り「スーパーバイザー」と「スーパーバイジー」が一対一でおこなうスーパービジョンのことを指します。一対一で指導を行うメリットは、ひとつの問題につき時間をかけて課題を洗い出し、ひとつひとつを解決に導きやすいという点にあります。面談でも、個人対個人でおこなったほうが話しやすいのと一緒で、指導・助言や問題解決も個別におこなうのが理想です。
2 集団スーパービジョン
3 ピアスーパービジョン
4 ライブスーパービジョン
…については上記web参照ください。
精神科初診時あるいは心理臨床の初回面において特に気をつけなければならないものとして、
①良好なラポール(疎通)あるいは治療関係の構築
②情報を十分に収集
③患者のリスク(自傷、他害、逸脱行動)の把握
④薬物依存や身体医学的問題の存在
⑤訴えの心理的意味の探求
があげられる。精神科医は真っ先に①~④に注目するが、これらがカバーされない間、⑤の心理的探索が一時棚上げになることがしばしばある。患者の症状、おかれている状況、医学的疾患やリスクが分からないことには、心理的探索を始めたとしても推測の域を出ない。
一方、心理師は①と⑤に先に注目することが多い。
公認心理師と精神科医との協働─心理領域からみた公認心理師制度の経緯と課題と展望─ (大阪人間科学大学)宮脇 稔
公認心理師の求められる役割と課題
エビデンスに基づく個別や集団への理解やアプローチに加え、ナラティヴに基づく実存的理解や力動的分析などの治療技術を期待されている。また、心理社会的ストレスの理解や対処法としてのリラクセーションやストレスマネジメント技法を用いた支援技能の活用、コンサルテーション機能の役割を担うことも期待される。精神科医療を担う専門職種として、心理室でのヘッドワークだけでなく、緊密な多機関ネットワークや、多職種チームワークで、積極的なフットワークを用いて協働する姿勢が求められている。心理学の専門知識以外に基礎的な医学知識、特に精神医学関連の知識が求められる。
まとめ
石隈利紀先生は「精神療法と心理療法は別」と解説していますが、もとは「サイコセラピー(psychotherapy)」という一つの単語であることも明記しています。ネットで検索すると「精神療法(心理療法)」とか「どっちも同じ意味です」といった解説も多く、「病院、精神科医による療法」か「病院以外、心理師による療法」かの違い以上の意味は無さそう。(勿論、その違いが大きいのですが。)
精神科臨床医の私としても、「面接に十分な時間がとれない」「そもそもカウンセリングの教育をしっかり受けた経験のある精神科医は少ない」…といった指摘、実に耳が痛い。どうしてもお薬に頼りがちになってしまう。おそらく歳を重ねるにつれて、時間をかけて患者さんの話を聞く機会はどんどん減ってしまう。
…なので学生さん、研修医さん、いっぱい話を聞きましょう!
若手精神科医の皆さん、残された時間は少ないぞ!!いっぱい勉強しながら、いっぱい面接して精神療法の技法を習得していきましょう!
(・ω・)私もがんばります
以上。