医局日記

【雑誌紹介】~COVID-19と精神科~


臨床精神医学第49巻第9号 特集/COVID-19に伴うメンタルヘルスの諸問題

第一種感染症指定医療機関におけるCOVID-19患者のリエゾン (荏原病院)成島 健二

病棟の再編成は、病棟に勤務する医療者、特に看護師の勤務体系に深刻な影響を及ぼした。慣れない業務に就く看護師は、心身両面にわたる深刻なストレスに晒された。コロナ禍が長引くにつれ、具体的かつ現実的な感染対策の形が確立され、当初は戸惑い、拒絶的になりがちだった我々の心の持ちようは、積極的にCOVID-19と闘う構えに変化していったように感じられた。感染を恐れて不安がるだけでなく、”貴重な体験”と捉えて前向きに対処しているスタッフが多くみられたことは、筆者にとって喜ばしい驚きであった。しかし一方で、当該科に疲労が蓄積し、特に患者と長時間直接対峙する看護師のなかに、内的に不安定になるスタッフが徐々に増えていった。


コロナ陽性の精神疾患患者の受け入れ (東京都立松沢病院)齋藤 正彦

5月下旬になって都内の精神科病院でクラスターが発生。ほかの都立病院と連携して患者受け入れを開始した。患者急増にともない、コロナ病棟のゾーニング変更、非陰圧室を含め陽性患者用ベッドを増やし、対策班を増やした。大学から派遣されていた医師が一斉に引き上げたため大きな混乱が起こっており、転院に付き添ってくる看護師は疲弊し、医師による診療情報提供も十分なものではなかった。
行政機関は、精神科受診歴があることを理由に当院に入院を求めてくるが、退院を求められた場合、精神保健福祉法による退院制限は難しい。感染症予防法による入院措置は、前例がほとんどないことを理由に保健所の対応が期待できない。


コロナ蔓延期の学生のメンタルヘルス (東京大学)渡邉 慶一郎

症状の変動を伴う精神障害がある学生にとって、今回の遠隔授業で登校する必要がなくなり、教室で直接顔を合わせる必要がなくなり、むしろ講義に集中できる学生もいた。一方で、休み時間や交わされる雑談が、失われてみると非常に重要だった学生もいた。
単身生活をしている学生のうち、寝るためだけと割り切ってアパートを借りていた者もいる。入構制限により住みにくい自宅にしか居場所がなくなった者にとって、非常に苦しい状況となった。
睡眠覚醒リズムの乱れが誘発され、連鎖反応的に不規則な食事摂取、過量飲酒が起こり、ただでさえ運動不足になっている日常生活へのダメージが蓄積したケースもあった。
今の状況で不足しているのは、あるいは学生やわれわれが求めているのは、助言や治療の前提となる、生きていくうえでの”希望”ではないだろうか。コロナ禍の状況が続けば、希望をもつことがさらに難しくなる危険がある。手がかりとしてネガティブケイパビリティや首尾一貫感覚という考え方がある。前者は「容易に答えの出ない事態に耐えうる能力であり、”謎を謎として興味を抱いたまま宙ぶらりんの、どうしようもない状態を耐え抜く力”」。後者は有意味感(どんなに辛いことに対しても、何かの意味を見出せる)、把握可能感(直面した困難な状況を、秩序だった明確な情報として受けとめられる)、処理可能感(どんなに辛いことに対しても、なんとかなるハズと思える)、だという。


コロナ蔓延とうつ・自殺 (岩手医科大学)大塚 耕太郎・他

感染流行と自殺の関連では、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の香港流行により、自殺率の上昇が認められたとの報告がある。したがって自殺対策のさらなる推進が求められている。しかし新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、地域の関連事業の中止、延期が余儀なくされることもしばしばである。
本を読む、音楽を聴く、マインドフルネスやヨガの練習をする、などストレスコーピングにも目を向けていくことも必要となる。
米国で検索される自殺リスク因子の関連用語についてGoogleの検索では「仕事を失った」「解雇」「失業」そして「一時解雇」が上昇し、災害相談窓口の検索も上昇したと報告されている。


クルーズ船内の乗客・乗員に対する心理的支援 (浅井病院)森 章

DPATの活動開始当初から、相談内容はほぼ前例が、感染への恐怖といつ終わるのかわからない船内滞留への不安に関連するものであり、自殺企図やせん妄といった切迫した状況も少数ながらあった。精神症状を理由とした船外搬出の基準としては「措置入院相当」とされ、その場合の受け入れ先も決まっていた。傾聴での対応が基本で、一部の乗客に睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬を新規に処方した。
乗客の不安のなかでも特に切実な内容として、われわれが「プラス・マイナス問題」と呼んでいたものがある。夫婦の一方がPCR陽性となり搬送された後、残された一人の不安である。傾聴し共感するだけでは不足であり、配偶者の入院先を調べ連絡先を伝える、自衛隊に要請してPCR検査を早めてもらう(当初は有熱者に限定していたため)等の現実的対処が極めて重要であった。
DMATの隊員から「情報が少なく、多くの乗客が感染すると皆死んでしまうかのように思って過剰に不安になっている」との報告が寄せられ、乗客向けの情報発信を依頼された。支援者間の正確な情報共有が必要であること、そのうえで乗客・乗員への適切な情報発信が、不安の軽減には最も重要であることを強く具申した。その後、乗客からの不安の訴えは確実に減少傾向となった。
乗員にも発熱者は居たが、概ね若くて健康であるため優先順位は低く、狭い船室で隔離となっている者も多かった。無症状の船員は自身も感染する恐怖を抱えつつ、非常に士気高く、統制のとれた働きぶりであった。船医の先生によると、特別なトレーニングは行っていないが、平素から家族のように結束し、乗客を安全に送り届けることに強い使命感を持っており、それが発揮されているとのことであった。とはいえ先が見えない状況の中で、ストレスは極限に達していた。


まとめ

勉強のために読み始めたら、すっかり読み耽ってしまった。うまく内容を纏めて紹介するつもりが…正直、纏め切れるようなものではなかった。各々の先生方による骨太な論文ばかりで、濃い内容です。
敢えて纏めると、「生じる問題点については、これまでの災害医療と概ね同じ」「先行きが分からない不安を軽減するためにも、正確な情報共有・発信がとっても大事」「スタッフも疲弊してきている」「できることを、やっていくしかない」ってのが、どの先生にも共通する意見でした。


以上。