医局日記

【精神医学】~日本の精神医学の歴史~

わが国の精神科医療の歴史Ⅰ 明治初期まで 大雲寺 癲狂院

精神科医の西丸四方(にしまるしほう 信州大学教授1910年- 2002年)は、彼の有名な教科書 (精神医学入門 南山堂) で、わが国では古代から狂気の記載があるとし、須佐之男命興奮・乱暴して天照大神がもてあまして天の石屋戸(いわやと)に隠れたことを挙げています。確かに須佐之男命の逸脱行動はすさまじいです。わが国の歴史は精神病的な問題行動とともに始まったともいえましょう。アダムとイブの物語と対比させてみると興味深いと思います。


精神医学入門 改訂25版
ISBN978-4-525-38015-1
ISBN4-525-38015-2

各国の精神医学と歴史 日本

土田献の「癲癇狂(てんかんきょう)経験編」

癲癇狂経験編 / 土田献 著 公開者:早稲田大学図書館 (Waseda University Library)

日本最初の、精神疾患の専門書。1819年。(上記サイトで公開されています)


神戸文哉(かんべぶんさい,信州小諸)の「精神病約説」
近代日本精神医療史研究会
京都癲狂院:『京都における精神医学的散歩 2』 その3 <新シリーズ・小林靖彦資料 119>


日本最初の、西洋式の精神医学書(英語翻訳)。1876年。


呉秀三(Wikipediaより)

東京帝国大学医科大学教授(精神病学講座)。日本における近代的な精神病学の創立者。
母校教授のほか、東京府巣鴨病院の医長や病院長、初代松沢病院長等を歴任し、「日本の精神医学の草分け」と言われた。森鷗外との交流があったことも知られている。
『わが邦くに十何万の精神病者は実にこの病やまいを受けたるの不幸の他ほかに、この邦くにに生まれたるの不幸を重かさぬるものというべし』という一節は特に有名。この言葉に表れているように、座敷牢や拘束に頼りがちだった精神病患者への対応を調査・報告し、その改善に努めた。

きょうされん結成40周年記念映画 夜明け前 紹介ページ


東京都立松沢病院(Wikipediaより)
松沢病院の前身は、明治5年(1872年)に東京府本郷に設置された養育院に始まる。その目的は、明治政府樹立後の内戦や廃藩置県による混乱によって生まれた浮浪者や行き場のない病人を収容することにあった。収容者を調査した結果、120人中68人が精神疾患者であることが判明。
1879年、東京府癲狂院(とうきょうふてんきょういん)として建てられた。初代院長は長谷川泰。
1901年に呉秀三が病院長となり、様々な病院改革を進めた。

現在は東京都(病院経営本部)が設置・運営する病院のひとつであり、精神科専門病院であるとともに他の各診療科を備えた総合病院となっている。
(Webサイト)


石田昇(Wikipediaより)

日本の医学者、精神科医。呉秀三門下生のひとり。
1899年に東京帝国大学医科大学に入学、1903年に卒業後、巣鴨病院(後の松沢病院)内にあった東京帝国大学精神病学教室の助手となり、29歳で『新撰精神病学』を執筆。31歳で長崎医学専門学校(後の長崎大学医学部)精神病学科の初代教授に就任。日本の精神医学の草創期に第一人者として活躍した。Schizophrenieを初めて「分裂病」と訳したのも石田である。
1917年(大正6年)には文部省留学生としてアメリカのジョンズ・ホプキンス大学に留学。この留学中に自らが精神を病んで妄想に侵されるようになり、同僚のアメリカ人医師ジョージ・B・ウルフ(George B. Wolff)をピストルで射殺。アドルフ・マイヤーの鑑定で終身刑に減刑され、1919年からメリーランド州立刑務所で5年間服役。1925年(大正14年)には日本に送還されて松沢病院に入院。その後回復することなく、1940年(昭和15年)に肺結核の悪化により松沢病院内で死亡した。
後の日本の精神医学界に多大な影響を与えたことは事実であり、中でも開放治療と作業療法を早くから実践した歴史的功績は大きい。


精神神経学会の誕生

学会概要 より

日本神経学会という名称で1902年に、精神医学の呉秀三と内科学の三浦謹之助の2名が主幹となり、会員数約200名で発会した。その後、1935年に会の名称に精神を入れ、「日本精神神経学会」と改称し、機関誌名も「精神神経学雑誌」と改めた。1946年に社団法人、2013年に公益社団法人となり、現在に至っている。


まとめ

基礎教養として知っておいて欲しい先人、本、病院、などについて紹介いたしました。
精神医学の歴史としては、やはりヨーロッパ圏の方が長く、深い。日本ではドイツ・オーストリア式の精神医学を教わるかたちで普及し、戦後はアメリカ式が主流となり、現在に至っているようです。

ちなみに精神科専門医を目指す方、西洋精神医学の歴史は必ず勉強しましょう。単なる教養としではなく、現代まで通ずる理論として、臨床に直結する重要な知識だからです。専門医試験に毎年必ず出ます。


以上。