医局日記

【カルテ】~精神科カルテの書き方~


医学書出版 精神科研修ノート 改訂第2版
ISBN9784787821904

第2章 精神科研修でマスターすべきこと
C 面接・評価方法
4 カルテの書き方

精神科におけるカルテの書き方について解説します。


記載の原則

①専門家で共有できる形式(専門用語、診断分類など)で、
②患者さんの様子をいきいきと思い浮かべられるような表現を用いて、
③治療の経過と計画をわかりやすく
記載しましょう。

例えば…

S)変わりません。
O)抑うつ状態。
A)薬物療法が必要。
P)薬を処方した。

これでは不合格。

S)何も状況は変わりません。辛くてたまりません。何もやる気がおきず、頭が回りません。
O)表情は暗く、涙を浮かべたまま、俯いたままか細い声で話す。「辛くてたまらない」と、抑うつ気分を示唆する発言をはじめ、意欲低下、思考抑制を示唆する内容の発言がみられる。
A)抑うつ状態であり、抗うつ薬の投与により症状改善をはかる。
P)SSRIを処方する。1週間後に効果を判定し、副作用なければ増量する。

って感じなら、どういう状況で、今後どうしていくか、分かりやすくなると思います。
慣れないうちはSubjective(患者さんの発言内容)が多めになると思いますが、それで構いません。


精神科カルテの特殊性

他の科では重視されない、書く必要が無いけれど、精神科においては重要な情報、って結構あります。
代表的なものを。

住所

訪問看護、デイケア、作業所、などなど
精神科においては多職種・機関での連携が必須。
社会復帰支援のため、どの辺にお住まいかは重要な情報です。

家族構成

同じ病気・症状であっても、独居かそうでないか、家族の支援が得られるか、
逆に家族への支援・介護で本人が疲弊していないか、
把握しておきましょう。

病前性格

もともとの性格。ただし本人の解釈と、周りからの解釈がズレている可能性に注意。

嗜好

精神科の場合、どうしても「原因となるストレス」など嫌なこと、悪いことばかりに目が向きがち。
ですが治療において大事なのは、何が本人にとっての心の支えになるか?というポジティブな情報。
無趣味な人でも、何かしら安心できるひととき、過ごし方ってのは有るハズ。


症状、所見の書き方

表出および体験(主観症状)。行動(客観症状)も併記しましょう。

外観

「最近疲れやすく、よく眠れません」

「最近疲れやすく、よく眠れません」

…同じ発現でも、どっちがヤバそうか分かるハズ。
見た目って大事です。身なり、服装など、印象が分かるように記載しましょう。


病識

いわゆる”病気の自覚”。「どうもないけど無理やり連れてこられた」というケースもあると思いますが、
主訴:なし …という記載ではカルテとしては不十分。本当に大丈夫なのかどうかわからない。
患者さんの発言、患者さんを連れてきた人の発言、をきちんと書きましょう。

希死念慮

「自殺」のリスク。絶対に見逃してはいけません。
元気そうに見える人でも、実は必死に絶望感と戦っているのかもしれません。
「死ぬほど辛いときがありましたか?」と尋ねておくべきです。


診療記録として

カルテは「開示請求」されることがあります。裁判において判決を左右する資料となるかもしれません。
「第三者や、患者さん本人が読むかもしれない」、ということを忘れずに。
誤解を招く表現になっていないか?患者さんの不利益になってしまわないか?
常に注意しましょう。


以上。