医局日記

【精神医学】~強迫性障害の治療~


臨床精神医学第49巻第1号 2020年01月28日 アークメディア
強迫症に対する曝露反応妨害法のアップデート─今日からできる臨床応用─ (国立精神・神経医療研究センター)蟹江 絢子・他

ある程度、前提となる知識が求められる濃い内容だったので、補足しながらまとめ。


厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト 強迫性障害

強迫性障害(OCD:Obessive Compulsive Disorder)

自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れない、わかっていながら何度も同じ確認をくりかえしてしまう病気。
「ドアに鍵をかけたかな?」「鍋を火にかけたままかも」と、不安になって家に戻ったという経験は多くの人がしていることでしょう。また、ラッキーナンバーなどの縁起にこだわることもよくあることです。
世界保健機関(World Health Organization:WHO)の報告では、生活上の機能障害をひきおこす10大疾患のひとつにあげられています。

意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考えである強迫観念や、
ある行為をしないでいられない、強迫行為などの症状をきたす。
自分で「やりすぎ」「無意味」とわかっていてもやめられません。

代表的な強迫観念と強迫行為
汚れ・感染を恐れて洗いまくる「不潔恐怖と洗浄」
誰かに危害を加えたかもしれない…という「加害恐怖」
戸締まり、ガス栓などへの「確認行為」
決められた手順でないと気が済まない「儀式行為」
不幸・幸運な「数字へのこだわり」
常に同じでないと気が済まない「物の配置、対称性などへのこだわり」

治療法
再発予防効果が高い「曝露反応妨害法(ERP:Exposure & Rresponse Prevention)」が代表的な治療法です。
汚いと思うものをさわって手を洗わないで我慢する、留守宅が心配でも鍵をかけて外出し、施錠を確認するために戻らないで我慢する、などです。こうした課題を続けていくと、強い不安が弱くなっていき、やがて強迫行為をしなくても大丈夫になっていきます。
薬による治療
抑うつ、強い不安感に対し、抗うつ薬のSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)を使用。うつ病よりも高用量で、長期間の服薬が必要です。


新しいタイプのERP(暴露反応妨害法)

ここから論文の内容。
といっても斬新なやり方、というわけではなく”他の治療法と組み合わせ”が主な内容でした。

①制止学習理論に基づくERP

「制止学習理論」でGoogle検索したら日本認知・行動療法学会 第43回大会での発表スライドがヒットしました。(…これ一般公開して良いやつなんだろうか?良く分からんのでリンクは避けます。各自ググって下さい。)
難解な理論っぽいけど、要するに「暴露すると、どうなると思う?何が恐い?」と前置きすることで学習効果を高める方法みたいです。
(この理論は私も知らなかった。今後、勉強してまいります。ひとまず今回は紹介まで。)

②第三世代CBT + ERP


第三世代の認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)を組み合わせる。代表的にはマインドフルネスなど。

モチラボ マインドフルネスとは何か?
ただ暴露反応妨害で「手を洗うな!確認するな!」を強いられるのは結構きつい。自分を客観視する訓練も一緒にすすめることで、治療抵抗・拒否・中断を防ぎ、有効性向上をはかる。

③家族を巻き込んだERP

強迫性障害では、患者本人だけでなく家族も巻き込まれているケースが少なくない。(「手洗い用の消毒液10本買ってきて!」「戸締りし忘れたかもしれないから今すぐ見てきて!」ってな感じで。)振り回されている家族も疲弊しがち。
家族も一緒に治療に参加することで家族のストレスも減り、結果的に治療も成功しやすい。

④薬物療法 + ERP

抗うつ薬(SSRI)を併用するだけでなく、DCS:D-cycloserine(NMDA 受容体部分作動薬)などの”認知増強薬”が有効ではないか?という研究が進んでいるとのこと。(調べたけど日本では売ってないっぽい…今後に期待。)

⑤テクノロジー応用ERP

「そもそも強迫性障害治療の専門家が見つからん!」「病院に行くのがハードル高い!」という人に。
治療用のスマホアプリがあるそうです。(Mayo Clinic Anxiety Coachというアプリが紹介されていました。ただし英語のみ。日本語版は未だ出てません。)


まとめ

強迫性障害は頻度の高い疾患ですが、重症になると治療に難渋することが少なくありません。「気にしない、こだわらない」ように自分を変えるのは相当難しいもの…ですが、不可能ではありません。治せます。まずは「変わることができる!」と自分を信じることから。
治療にあたる若手精神科医のみなさん、自信をもって「この病気は治せます!」と言える日が来るよう、最新の知見を学び、修行を積んでいきましょう!
…私もまだまだ修行中。がんばるぞ!(・ω・)

以上。