医局日記

【一般医学】~お薬、治験とは~

臨床医としては「既に発売されている」薬を使う立場ですが、お薬が市場に広まるまでの過程は医師として必須の知識。
国家試験にも出るので、学生さんも勉強すべし。
若手医師の皆さんにおいては将来、研究に参加する機会があるでしょう。その時のため。



ホーム>くすりについて>新薬・治験情報>治験について より

Q33 1つのくすりを開発するのに、どれくらいの年月がかかりますか。

(1)基礎研究(2~3年)
天然素材(植物・動物・鉱物など)からの抽出(ちゅうしゅつ)や、化学合成・バイオテクノロジーなどさまざまな科学技術を活用して、くすりの候補となる化合物をつくり、その可能性を調べる研究です。

(2)非臨床試験(3~5年)
くすりになる可能性のある新規物質の有効性と安全性を、動物や試験のために人工的に育てた細胞を用いて確認します。また、物質が体の中でどのように吸収され体内に分布していくのか、どのような影響を与えて体の外へ排泄(はいせつ)されていくのかなどを観察したり、物質自体の品質、安定性に関する試験もおこないます。

(3)臨床試験(3~7年)
非臨床試験を通過したくすりの候補が、人にとって有効で安全なものかどうかを調べるのが臨床試験(治験)です(Q34 参照)。

(4)承認申請と審査(1~2年)
くすりとして有効性・安全性・品質が証明された後、厚生労働省に対して承認を得るための申請をおこないます。厚生労働省では、医薬品医療機器総合機構に審査を依頼し、その審査を通過した後に、学識経験者などで構成する薬事・食品衛生審議会の審議を経(へ)て、厚生労働大臣が許可すると、医薬品として製造・販売することができます。


Q34 くすりを開発するうえで重要とされる「治験(ちけん)」とはなんですか。
2.治験の3つのステップ

治験は、3段階にわかれています。
第1相(フェーズI)試験では、少数の健康な人を対象に、副作用などの安全性について確認します。
ごく少量から少しずつ「くすりの候補」の投与量を増やしていき、安全性はどうかについて調べます。また、血液や尿などの中に存在する「くすりの候補」の量を測ることにより、どのくらいの速さで体内に吸収され、どのくらいの時間でどのように体外に排泄されるのかも調べます。
第2相(フェーズII)試験では、少数の患者さんを対象に、有効で安全な用量や用法などを確認します。
どのような効き目を発揮するのか(有効性)、副作用はどの程度か(安全性)、またどのような使い方(投与量・間隔・期間など)をしたらよいか、といったことを調べます。
第3相(フェーズIII)試験では、多数の患者さんを対象に、有効性と安全性について既存の標準薬などとの比較をおこないます。
確認の方法は、現在使われている標準的なくすりがある場合にはそれとの比較、標準的なくすりがないときにはプラセボとの比較が中心になります。これとは別に、長期間使用したときの安全性や安全性がどうかを調べることもあります。


1.治験のルール

治験は、薬事法に基づいて厚生省が定めた「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」のルールに従って、次のような手続きと仕組みの下で行われます。
①製薬会社は、治験を担当する医師が合意した「治験実施計画書」を厚生労働省に届け出ます。
②治験審査委員会では「治験実施計画書」が、人権と福祉を守って「くすりの候補」の持つ効果を科学的に調べられる計画になっているか、治験を行う医師は適切か、参加される患者さんに治験の内容を正しく説明するようになっているかなどを審査します。

厚生省の調査終了後に、製薬企業が病院に治験を依頼しますが、治験を依頼する病院は以下のような条件が必要となります。
・十分な医療・検査設備がある
・専門の医師をはじめとして、薬剤師や看護婦などのスタッフが十分に揃っている
・治験の内容を審査する委員会を利用できること
・緊急時には直ちに必要な処置が取れるようになっている


まとめ

お薬の開発・販売には長い年月(9~17年)を要します。
安全に最大限配慮しますので、「よっしゃ新薬を開発したぞ、さっそく人体実験じゃ!」なんてやり方は認められません。申請・審査などを通し、認められた病院での治験を実施し、十分なデータが得られてようやく市場に出ることになります。
細胞や動物実験で「お、これは効きそう」と思っても、人体に投与した場合の影響、適切な投与量、効果・副作用は、実際に試してみないと分からないことも多いのです。
(なお「本当は効き目が無いハズなのに効果が出てしまう」という「プラセボ」についてはまたの機会に解説したい。…統計学を理解する必要があり、ちゃんと解説しようとすると結構難しいのでご容赦を。)


医薬品副作用被害救済制度

審査をパスして市場に出回っても、後に重大な副作用が判明することもあります。
上記サイトにて、そうした場合の救済制度について解説されています。

臨床医の皆様においては、自分が処方している薬の最新の安全情報について常に注意を払いましょう。
こうした制度の存在を知り、必要な際に患者さんに情報提供するのも医師の責任です。


以上。