医局日記

【手の外傷】~初期対応などを中心に~

精神疾患の有無はさておき手~前腕の外傷は珍しくない。
医療従事者としての初期対応を勉強しておこう。

参考文献

中外医学社 アトラス形成外科手術手技 2011年05月発行
ISBN978-4-498-05300-7


”創”と”傷”の定義の違い

創:皮膚の連続性が断たれた状態。(開放性の損傷)
傷:連続性が維持された皮下での組織損傷。(鈍器による打撲とか)

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なお学生さんが間違えやすいポイント(試験問題に出やすい)としては下記。
切創:刃物で切られた傷。
刺創:刃物で刺された傷。表面の傷は小さくても深くまでダメージあり注意。
割創:刃物で切られ、かつ強い衝撃が加わったもの(刀、斧とか)。
裂創:刃物ではなく牽引力・圧迫で引きちぎられた傷。

救急や外科の先生に相談するとき、〇創or〇傷という表現は正確に伝えたいところ。自信が無ければ、多少話が長くなるのは覚悟で「受傷機転」を伝えましょう。(例:包丁でサクッと切って…バールのような物で叩かれ皮膚が破けて…など)


解剖のポイント

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南江堂 ザイゴット3D解剖 for iOS より左前腕~手のCG画像。私のスマホでスクショしました。
左は皮下組織表示、右は手指の筋組織を除いて表示しました。

血管

主要な動脈は2本で、橈骨動脈尺骨動脈。これは覚えておきたい。解剖の基礎。脈が触れるところです。
血がピューピュー噴き出している、脈と一緒にドボッドボッとリズミカルに出血している場合は動脈損傷が疑われる。
静脈もっと多く、橈骨静脈、尺骨静脈、前腕正中皮静脈、および副橈側皮静脈。個人差もあるので覚えなくても大丈夫。

神経

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左は神経・骨のみの表示。右は手関節部の断面図。

手の解剖において橈骨神経、正中神経、尺骨神経、の3本は基本。国家試験にも必ず出る。
深さ的に神経のみ単独で損傷を受ける可能性は低い。神経がダメージを受けるとすれば傷口は相当派手になっているハズ。

摂津本山/岡本/青木/芦屋 カイロ整体院 松村カイロプラクティック
手根管症候群 手のしびれ
より


皮膚感覚と各神経の関連領域は上図の通り。

筋・腱

断面図を見ての通り、手関節部には多数の腱が通っています。めっちゃ複雑。

注意点として「1か所が切れても他の腱で運動機能が補われることがある」ということ。
手指は動いているので多分腱は切れていないだろう」…とは限らない。後から後遺症が発覚するかも。


いずれにせよ「血管・神経・腱の深さに達している」可能性があれば専門家による判断が必須。
迷わず救急対応を!



初期対応について

ここから先は教科書ではなく、私の研修医時代の知識での解説が主となりますのでご容赦を。


とりあえず圧迫止血

血が出ていたら、とりあえず抑えて止める
注意点としては「抑え過ぎない」こと。血が止まれっていれば十分。先述の通り手は2本の動脈で栄養されているため、1本生き残っていれば基本的には大丈夫。逆に止血の圧迫が過ぎて2本とも潰してしまわないように!

洗え。

「日本の水道水は世界一綺麗だ!ジャブジャブ洗え!」研修医時代、指導医から言われました。
逆に「消毒液皮膚の下の組織に塗ってはダメ!」。アルコールやイソジンは、あくまで皮膚表面の消毒に用いるもの。皮下に入っちゃうと正常な組織にダメージを与えてしまう恐れがあります。
なお水道水は結構傷口に染みて痛いので、傷が小さいなら「生理食塩水」がオススメ。浸透圧の関係で染みにくく優しいです。

観察・評価せよ。

洗った後、傷がどの程度の深さまで到達しているかを確認。
ただし洗っている最中にピューピュー血が噴き出し始めた場合は、動脈損傷が疑われるため止血優先で。

花王 スキンケアナビ 真皮の構造と働き より

①表皮までの傷
基本的には傷跡を残さず治癒します。絆創膏、ガーゼ貼付の対応で。
なお傷口に日光が当たるとシミになりやすいので、完全に治るまでは長袖の服をオススメ。

②真皮までの傷
原則として縫合処理を要することになります。応急処置としてはテープ固定・ガーゼ圧迫固定。
放置すると傷跡が残る可能性が高いです。なるべく縫合の達人である皮膚科・形成外科の先生に縫ってもらいましょう。
48時間経過すると表皮が癒着し血は止まりますが、放置すると皮膚の張力で傷口を開く方向に力が加わり、傷跡が目立ちやすくなる。できれば1か月程度、テーピングで傷を保護してあげましょう。

③皮下組織までの傷
真皮を貫通している場合、血管・神経・筋腱組織が損傷している可能性がある。場合によっては緊急手術になります。
急ぎ救急外来を受診しましょう。歩けない・動けない状態なら救急車を呼んでも良い。


まとめ

手の解剖は複雑。受傷機転によっては、見た目以上に深部組織にダメージが届いていることもある。
手指は日常生活機能に直結する重要な部位であり、後遺症を残すと大変な問題となります。
とりあえず圧迫(強過ぎない程度に)止血し、よく洗ったら、なるべく専門家(救急、皮膚科、形成外科など)の先生に診てもらうようにしましょう。その際に傷の性状を伝え間違えて「なんだ軽傷か」と誤解・思わぬ問題を招かぬよう、「受傷機転」をしっかり聴取しておきましょう。


以上。