医局日記

【精神医学】~ステロイド精神病~

~とある日のリエゾン・コンサルテーションカンファレンス~

(´・∀・)「”ステロイド精神病”が疑われる患者さんの対応を相談されるケース、少なくありません」
(´・∀・)「とても判断が難しいです。お薬の副作用であれば、お薬を中止するのが原則…とは言え、それだと身体の治療が中断してしまうことになります。ステロイドを使い続けたまま精神科の治療も並行…これはこれで、患者さんの理解・協力が得られるかどうか。協力が得られない場合、どこまで強制的な治療を行って良いものか、という倫理的な問題もあります」

(`・ω・)「ステロイド精神病は実際のところ、まだ詳しく分かってない部分が大きいのです」
(`・ω・)「ちょっと古い資料だけど、これ読んでおいてください」


星和書店 精神科治療学 第21巻増刊号 2006年10月号 症状性(器質性)精神障害の治療ガイドライン

第2章 特定の物質の不足ないしは過剰に疾患が由来する病態
4. 非依存性医薬品
4-1.グルココルチコイド
中川 伸,小山 司 (北海道大学)
より。

【頻度】
(ステロイドによる)精神症状の発症率は平均5.7%。
投与量が多ければ発症しやすい。プレドニゾロン換算で40mg/日を超えると4.6%、80mg/日を超えると18.4%。

【患者因子】
原疾患(ステロイドを使う、自己免疫疾患)が女性に多いこともあってか、女性で症状が出やすい。
全身性エリテマトーデス(SLE)、天疱瘡に罹患している場合に多いらしい。

【治療因子】
長期間のステロイド投与は、うつ症状を引き起こしやすく、急性投与は躁状態を引き起こしやすい
…と言われているが、そうとも限らない説も。投与方法(隔日投与、分散投与など)により症状も異なってくるらしい。
確かに言えることは、投与量に依存している(多く投与すればするほど精神症状が出やすい)ということだけ。

【精神症状】
精神症状はステロイド投与後3~11日で出現しやすい。
多弁・多動、多幸、気分易変、抑うつ気分などの”気分症状”が高頻度
他には、幻覚・妄想などの”精神病様症状””せん妄”など。
認知・記憶障害もみられ、陳述記憶の障害が特徴的。
長期間の投与後に認められる”退薬症候群”も報告されており、疲労感・食思不振・抑うつ気分・離人感などをきたす。

【鑑別の難しさ】
ステロイドの投与・中止・増減、によって症状が明らかに変化するなら分かりやすいが、そもそもステロイドを必要とするに至った基礎疾患(全身性エリテマトーデスなど)自体が精神症状の原因となることもあるため、鑑別が難しい!

【予防】
リチウム投与が有効、との報告がいくつかある。ただ、原疾患で腎障害が起きているケースもあるため慎重に。血液検査は頻回に行おう。
他の気分安定薬が使われたケースもあるが、有効性については賛否ある。

【治療】
ステロイドを減量・中止するのが優先。
せん妄は1週間以内、気分症状・精神病症状は3週間以内で回復し、殆どのケースで6週間以内には完全に回復する。
…が、原疾患の治療のためにステロイドを中止できない場合も多々あるハズ。
その場合、気分安定薬・抗精神病薬・抗うつ薬などの精神科のお薬を併用することになる。(基本的には症状に応じて使い分ける。躁状態なら気分安定薬、抑うつ状態なら抗うつ薬、幻覚妄想状態なら抗精神病薬、など。)

【病態】
なぜステロイドにより精神症状が引き起こされるのか…については、解説が難解なのでパス。
各自調べられたし。


~補足、私が調べた限りでは…~

”ステロイド精神病”という病名自体、きちんと定義されているわけではなさそう。
”ステロイド誘発性精神病”、と表記されることもあります。
ちなみに”精神病”という表現、精神医学においては「幻覚妄想症状」の意味として使われることが多いのですが、ステロイド精神病については当てはまりません。広い意味での「精神的な症状」を指しているものと思われます。(先述の通り、気分症状が主体となるケースの方が多いですし。)

保険診療においてはICD-10コードのF19.5(精神作用物質による精神疾患)に分類されるみたいだけど、DSM-5を含め、精神医学系の本を読む限りでは「ステロイド精神病」とズバり書かれた項目は見当たりませんでした。

ステロイド精神病に最初に直面するのは殆どの場合、ステロイドを処方した立場である”内科のお医者さん”です。
内科治療においては頻繁で重大な問題ですが、精神科の立場だと相談を受けない限り出会うことのない珍しい疾患扱い。
そうした事情から、精神医学的な分類・定義づけ、が追い付いていないのだと思われました。

今後の更なる研究が求められる分野であることは間違いありません。
治療に携わる一員として私も、常に最新の知見を学び・発信していく所存であります。


以上。