医局日記

宇宙旅行時代は実現するか その1

人類が月に降り立ってから50年も経っているのに、まだ火星旅行どころか再び月に行くことすら叶わぬ昨今。

理由としては「お金が足りない」の一言に尽きるのだが、逆にお金を確保できたのなら、どのように宇宙旅行を実現することになるか。

そもそも、どうやって「お金が足りる」状況を作り出せるか。

解説していこう。



①周回軌道に到達するまでが一苦労

打ちあがったロケットは、まず地球の周回軌道に乗せる必要がある。

高度の問題ではない。速度が重要だ。ただ宇宙空間に出ただけでは、放物線を描きつつ地球の引力に負けて地表に戻ってきてしまう。つまり単なる大陸間弾道ミサイルになってしまう。

そのためには第一宇宙速度(約7.9km/秒)以上まで加速しなければならない。


http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/need_speed.html

JAXA 宇宙情報センター 早く飛ぶためのくふう


7.9km/秒という猛烈な速度まで加速するためには、とにかく燃料を吹かしまくる必要がある。

テレビとかでロケットの打ち上げ映像を見ると、どれも最初は垂直に打ち上げている。あれは空気抵抗が小さい大気圏上層に出るまで。実は視界から消えた後、横方向へ猛烈に加速しているのだ。

結果として上図の通り、ロケットの積み荷のうち大半は、燃料になってしまうのである。


さて、燃料の大半を使い果たして周回軌道に到達できたとしても、地球外の惑星に旅立つために、お次は第二宇宙速度(約11.2km/秒)まで加速する必要が出てくる。第二の難関だ。



②ガソリンスタンドが欲しい

第二宇宙速度(約11.2km/秒)を超えないと、地球の重力圏を脱出できず、大きな楕円軌道を描きながら戻ってきてしまう。

この加速が第二の難関となるのだが、実はそこまで悲観的な話ではない。

というのも周回軌道に到達した段階で7.9km/秒という運動エネルギーは既に確保されたからだ。

第二宇宙速度に到達するためには残り、11.2 – 7.9 = 3.3km/秒だけ加速すれば済むのである。

第一宇宙速度の半分以下。意外と行けそうな気がしてきませんか?

(実際にはもっと複雑な計算だろうけど分かりやすさ優先。)

https://japanese.engadget.com/2015/10/20/mit/

engadget 宇宙ガソリンスタンド


周回軌道上に燃料補給用のステーション、要するにガソリンスタンドを作ってしまえば良いのだ。

そこで燃料を満タンに出来れば、第二宇宙速度を超えての惑星間航行が可能になる。



③ガソリンスタンド建設のためには

国際宇宙ステーション(ISS)の建設がそうであったように、パーツを一つずつ運んで軌道上で組み立てる、というのが現実的だろう。

しかしガソリンスタンドとなると、肝心の燃料を運んで貯蔵しておくことになる。

ただでさえ重い液体を、大量に、周回軌道に運ぶ。これは大変だ。

宇宙開発に「お金がかかる」のは、まさにここ。

安く、採算が取れる方法で、運搬計画を立てるには、どうすれば良いだろうか。


いくつかの方法が考えられている。


(A)軌道エレベーター

https://gigazine.net/news/20160412-space-elevator/

GIGAZINE 宇宙と地球をつなぐ「軌道エレベーター」の仕組みと技術的課題がよくわかるムービー


地上から静止衛星軌道までを直接繋げてしまうという壮大な構想。

これなら1滴も燃料を使わず、エレベーターの上り下りで高軌道空間まで輸送できる。めっちゃ安い。

ただ、完成しなければ何も始まらない。技術面、予算面、課題は山積みだ。



(B)スペースプレーン

http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/space_plane.html

JAXA 宇宙情報センター スペースプレーン


ロケットを毎回使い捨てるのは勿体ない。再使用できる機体を使うことで、予算を節約できるのではないか、という発想。

理想的には、大気圏内でジェットエンジンを使用して加速し、ある程度の高度・速度に達したらロケットエンジンに切り替える。大気中の酸素を活用できれば酸化剤燃料を載せる量が少なくて済む。効率が良い。

滑走路さえあれば飛行機と同じように、場所を選ばずどこからでも発着できる利点も大きい。

実に効率的でスマートな方法…に思われたのだが、実際には想像以上に難しいことが判明している。

最大の問題は”熱対策”。大気圏内での超音速航行、周回軌道から帰還する際の大気圏再突入、どちらも凄まじい高熱を耐え抜かなければならない。

ちなみにスペースシャトルは、この耐熱板のメンテナンスに莫大な手間と予算がかかることが判明したため、運用中止に追い込まれた。



(C)格安ロケットを連発

https://sorabatake.jp/6690/

宙畑 コスト100分の1へ、再使用ロケットが壊す宇宙の常識と残る課題


余計なことは考えず、とにかく安いロケットを量産して打ち上げまくれ!という力技。

しかし今のところ最も確実な方法である。

それでも開発費、1回あたりの打ち上げ費、なかなか採算が取れないまま、21世紀を迎えることになった。



④まずは格安ロケットから、地道に。

つい先日、スペースX社が、民間企業として初めて有人宇宙飛行を達成し、国際宇宙ステーションへのドッキングまで成功させた。

ミッション自体は目新しいものではないが、「お金」の問題をクリアできつつある、という点において、宇宙開発の歴史を進めたビッグニュースだ。民間企業による、採算が取れるビジネスとしての宇宙飛行、それが始まったのだ。つまり(C)の方法が、ようやく現実的に手が届く範囲に来たのだ。

結論として、地道にやっていくしかない。

宇宙旅行への道は、止まっていたわけではない。地道に重ねた結果として、少しずつ未来に進んでいたのだ。



以上。