論文紹介
高齢者における宗教性,well-being,およびバイオマーカの関係について
健康な高齢者を対象にして,well-beingの指標の一つである生活満足度と宗教性との間の関係について調べました.また,ノルアドレナリンの代謝産物であるMHPGが生活満足度や宗教性とどのような関係があるのかについても検討しました.宗教性は,来世信念(あの世を信じている度合い),死や宗教に関わる経験(連れ合いの死,墓参り等)の有無を問うものです.来世信念が強いほど,また,墓参りをしていると答えた人ほど,生活満足度が高いことを明らかにしました.さらにMHPGが高いほど生活満足度が高いこともわかりました.MHPGは心的活動性を表す指標でもあることから,主観的満足度が高いと心理的にも活発であることがわかりました.
現在,来世信念とオキシトシン(OT)との関係を調べています.OTは,愛情や信頼を誘発すると言われている一方で,社会的ストレス(人間関係がうまくいっていない等)が大きいほど,その末梢濃度が高くなることが報告されています.私たちのデータでは,来世信念が強いほど末梢OT濃度が低くなっています.日本人の来世信念が,あの世・この世の人の絆を反映すると考えると興味深い結果です.これは老年精神医学会で発表する予定です.なお,OTは記憶や学習といった認知能力とも関係があると言われています.私たちの高齢者を対象とした研究では,MCI・認知症患者の末梢OT濃度が健常者のそれよりも低くなっていることを見出しています.
今村 義臣
参考文献
Belief in life after death, salivary 3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol, and well-being among older people without cognitive impairment dwelling in rural Japan. (2015) Imamura Y, Mizoguchi Y, Nabeta H, Matsushima J, Watanabe I, Kojima N, Kawashima T, Yamada S, Monji A. Int J Geriatr Psychiatry. 30: 256-264.